最近の趣味は、会社帰りの深夜になつメロをかけながら窓を全開にして、車で爆走すること。そうすると、外の色んな匂い、今だと夏のはじめの緑の匂い何かが車にぐぐーと入ってきて、それは走ってる場所によって色々かわってくるんだけど、それが何かの瞬間に音楽と合わさり、「すうっ」としばらくの間、中高生のあの頃に戻ってしまうんだ。今のこの世の、妻や子供のこと、311のこと、そのすべてが消えて、本当にアタマの中が真っ白になって、一瞬、あの頃の気分に戻る。
S.キングの短編に『トッド夫人の近道』という名作がある。ある中年の女性が、自分の別荘への近道探しに熱中し、そのうちにありえない時間に着くようになる。するとなぜか夫人がだんだんと若返っていく、という話だ。おれはこの短編が大好きだ。特にトッド夫人が「ありえない近道」の中を通る時の描写がいい。そこは見たこともない怪しい動物や植物が蠢く異世界なんだけど、トッド夫人はそこを通るのが好きなんだな。というか気づいていたのだろうか、その異世界に。
深夜バイパスを走りながら外の緑や何かの匂いで「すうっ」となるあの瞬間、おれは少しタイムスリップしていて、そのせいで体が少し若返っているんじゃないかと思うことがある。「すうっ」の後、何か体からゴミが少し去って行ったようなあの爽快感。最近病みつきだ。