映画館で。いろいろ惜しいところはあれど、愛しげな映画でした。劇団ひとり、初の監督作。
柴咲コウが大好きです。だから観に行ったようなところもあります。イヤ、大泉洋も好きです。使われ方で残念な時も多かれど良い役者さんで、今回の映画は特に、というか今まで観た中では最高にすばらしい洋ちゃんだったかも。劇団ひとりもすばらしかった。大泉洋の年齢も、生まれた年も設定も近く、それだけでとっても親近感があります。
大好きな『異人たちとの夏』のように、主人公が過去にタイムスリップし自分の両親と会う物語。柴崎コウが美しき母親で、小さい頃息子を捨てて出て行ったと聞かされていたのに、実は出生にまつわる別の事情があって…。
タイムスリップして自分の母親に逢い、そうとは知らずに口説こうとする。的な話ってこれに限らず結構ありますね。実はずっとずっと母親が苦手な自分も、1970年当時にタイムスリップしたら、そこで自分の母親に逢ったら、あるいはそうなってしまうかも、とはこの映画を観て初めて思った。両親達の70年代の写真を見ているからね。たとえば今の妻を例に挙げるまでもなく、女性の20年前、30年前ってもう別人だったりする。そして自分は個人的に70年代の女性って大好きなの。ファッションとか見た目が。だから70年代の柴崎コウなんってたらもうね…たまんないですよ。
洋ちゃんとひとりがコンビを組んで舞台に立つところは普通に大笑いしちゃうし、洋ちゃんの本気マジック(カット割り無しのガチ)もすごいし、美術は気合い入ってて全然安っぽさもないし、演出も冒頭の現代シーンがちょっとわざとらしい他は、いい。気にならない。舞台の後の居酒屋シーンはうらやましくてしょうがない。タイムスリップしてからは、シヤワセ感満載の映画です。
【以下ネタバレ感想】
●『異人たちとの夏』的シチュエーション、大泉洋の使われ方、70年代へのタイムスリップ、美術がちゃんとしているところ(『三丁目の夕陽』とかはCGのせいか全然ノれなかった)、柴崎コウ、劇団ひとりのキャラ、そういったものがみんな好物なので、中盤位まで観た時点で「ああ、これでもう観た甲斐あったわ。OK!」と思っちゃってた。あくまで好物がこれだけ揃っている私の意見ですので、邦画滅多に観ない人にお勧めできるような快作!って訳でもないと思います。そのへん含んで読んでくださいね。
●病院で、柴崎コウに「生まれてくる子はどんな子?」「私はどんな母親?」と聞かれ、それに答える大泉洋の長回しのセリフが本当にすばらしい。泣けました。
●で、この台詞が観ている観客に伝えていることって、当たり前だけど皆忘れがちなことで。自分が産まれる前に両親がどれだけの想いを自分に注いでいたかということ。これが文字通りタイムスリップして「ああ、そうだったんだ」って、文字通り「実感」できちゃうみたいな。タイムスリップものにした意味は、まさにここにあると思う。
●そのセリフを受けて柴崎コウが泣き出すところで、タマフルで宇多丸氏は「それは違うんじゃないのか」「泣かずに洋ちゃんに泣いている理由を聞く、とかの方が絶対盛り上がるのに」という持論を話していたけど。たしかにそう。映画的には、その方が洋ちゃんの気持ちに寄り添えたままなので、盛り上がるのだろう。きっと。だけどあのシチュエーションで、ましてや、出産で自分の生命が危ういと聞かされている本当の妊婦の立場だったら、絶対にああいうリアクションになると思う。出産直前の妊婦の心理状況を宇多丸氏は全然分かってないよ。って当たり前だ。映画的にどうかって話だもんね。
このシーンって、2人がまったく違う理由で向かい合いながら泣いているんだよね。だから初見ですっとは入りづらいかも知れないけれど、ちょっと不思議なシチュエーションで。確かに映画的にはセオリーじゃないのかも、だけどね…何と言っていいのか分からないけど、好きなシーンでもあるのです。
●劇団ひとりって役者としてもすごくいい存在だな。好きだ。でも柴崎コウにはもっといい役を与えて欲しい。確かに今回は天使みたいな役でそれはそれで好きだから観ていて気持ち良いのだけど、キャラクターに別の奥行きがあればもっともっと魅力的になると思うのに。(こういうのって作る人の女性観が如実に出るよなぁ)
【残念ポイント】
●エンディング曲。正直のれません。なんでミスチル?
●屋外時の照明?撮影?
ほとんどロケしているらしいから、当然すべてがナチュラルな質感の照明です。確かに本当にタイムスリップしたら、過去の世界はセピアでもないし粒子が粗くもないし、これがリアルっちゃリアルなんだろうけど、観ている人の「本当にタイムスリップした感」のスイッチを入れるには、もう少し、ほ〜んの少しなんだろうけど、作為的な質感の修正があった方が良いような、気がする。単純に自分が今一歩乗れなかった(三丁目の夕日に比べてばずっとマシだけど)のは何故かな〜と思ったんです。時代は違うんだけど、『横道世之介』の映像は「本当にタイムスリップしたった感」がアリアリだった(こちらは記憶に残っている時代だから、という理由もあるだろう)。『青天…』はそこまでではなく、美術も本当にしっかりしているのに、何故か今1歩作り物感が拭えない。うーん、惜しい。でも屋内の、特に両親の部屋とかでの柴咲コウの美しさったらなかったね。これもスタッフのこだわりなんでしょう。
●最後の終わり方もちょっとも物足りないかなぁ。ボケた映像のお父さん(声も変)でおかしな最後を締めさせるよりはもっとなぁ。コウちゃんの面影とかなぁ。最後に見せて欲しかったです。クライマックスは病院での洋ちゃんとの受け答えで終わっていた感。
何にしてもこのメンツでこのストーリーを演ってくれたことがホントに嬉しい。ツボが似ているから、きっと次回も良い映画を撮ってくれそうな気がする。これが処女作となる監督:劇団ひとり。次回作以降も期待しています。
★★★1/2☆
関係ないけど、予告編で出ていた『STAND BY ME どらえもん3D』が本気で鳥肌が出た位おぞましかった。だいたいなんだよSTAND BY MEって。何でこんなもの作るんだろう。
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