映画『バイス』感想

ユナイテッド・シネマで『バイス』滑りこみ。

片田舎のチンピラ電気工が、権力・地位至上主義の妻による協力なバックアップのもと、アメリカ史上最も大きな権力を持つ副大統領にのぼりつめ、戦争を起こし何十万人を殺すに至るまでを描く映画。

とは言え堅苦しい政治映画では全然なくて、サタデーナイトライブ出身の監督が全面に散りばめたギャグと皮肉、フィクションと実際の映像を混ぜた小気味良い編集でオモシロおかしく誰でも分かりやすく権力中毒者の為す業を描いている。

無理に映画館で観る作品ではないと思うけど、レンタルになったら是非見た方がいいよ。お薦め。マイケル・ムーアの内容をもっとエンタメよりに面白くしたような。エンディングの皮肉がもう最高。笑いながら笑えなくなる。アカデミー賞8部門ノミネート、メイクアップ&ヘアスタイリング賞受賞。

アメリカすごい。
こんな映画が撮れちゃって、ヒットするアメリカすごい。
色々と見習いたくないことが山ほどある国だけど、これだけは真似できない。民主主義とエンターテインメントの根幹から違っている。

拷問は禁止されている。だからアメリカで行われているとすれば、それは拷問ではない。とか。
レズビアンの娘がいながら、政治的立場のために両親が揃って同性婚に反対するとか。

枚挙にいとまのない愚劣卑劣なシーンが出てくるけども、それらはおよそ前後のギャグと皮肉で分かりやすくエンターテインメント化されて、誰でも楽しめながら理解し、強烈に頭に残る。すごい。

主人公のチェイニーは勿論、ひたすらお馬鹿に描かれる子ブッシュも、「理念は?」との問いに爆笑で答えるラムズフェルドだって、すべて存命。描かれる彼らの家族も、彼らのせいで犠牲になった何千の米兵、何十万のイラク人、その家族だって、この映画を観る。

だけど映画は映画。この稔侍(作品には基本的に弁護士チームがついて対策しているそう)。日本では絶対にできない。

クソ野郎が権力を握るとどうなるか、何を解釈してどうするとどこまでが可能になるのか、その構造が良く分かる。そして今の日本の彼も良く似ている。だけどそれらはすべて正義のためなんだ。 .
(クソ野郎とか書いてるけど愛らしいのですよ皆)
(特にブッシュの仕草は全シーンが面白い)

映画の冒頭に流れるイントロ。賃金が減り労働時間がなくなると、誰も政治には関心がなくなる。そんなヒマはなくなっていく。その中で誰にも気付かれず権力の中枢に登った男がいる。彼はのちに、911テロとは関係ない国を、中東戦略と自分の会社の為にスケープゴートにした。自国の数千人の若者と、彼の国の何十万人の老若男女を犠牲にして。それに気付かなかったことは、果たして誰のせいだろうか?

町山智浩がアダム・マッケイ監督にインタビューしている
.
「日本ではこのような映画は撮れません。作り手たちは常に訴訟や反発を恐れている。そのため制作費を得るのも俳優の確保も難しいんです。そんな状況を打破できるようコメントをいただけませんか?」
.
対するマッケイ監督の答え。
.
「監視を怠れば、政府は暴走する。
国は危機に陥り、崩壊するだろう。
政府に動きがないときも
自分のすべてを懸けてでも
疑わなければダメだ。

時には仕事を失い
恥をかくかもしれない。

でも、歴史は証明してくれる。
最終的には
あなたが正しいことをね。

アメリカでも、人々が口を閉ざすことは多くある。
権力を恐れているからだ。

ただ、特にあなたが映画製作者や画家、詩人、小説家、俳優など芸術家の場合
(注※ここに「俳優」が入るのも大きな違いだろう)
権力を疑うのが、まず初めの仕事だ。」
.

イヤ何度も書くけど全然お堅い映画じゃないので、ぜひ気軽に見て欲しい。
音楽もビジュアル・グラフィックのセンスも最高。

終わった後130分もあったことを知ってびっくりした。90分位の感覚だった。

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