BSアニメ夜話『トップをねらえ!』
以前の『オネアミス…』の回のような消化不良はなく、「よくぞ言ってくれた」的カタルシスはほとんど押さえてある内容でした。マンガ夜話と違ってアニメ夜話ですんで、そんなに深いトコロまで掘り下げることはできませんし、とてもこの放映時間で語りきれるような作品ではないですが、とりあえず満足です。
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『オネアミス…』の回と決定的に違う、今回のアニメ夜話を成功に導いた原因は、岡田斗司夫のノリの良さでしょう。本人曰く
「前の『王立宇宙軍』の時は、どうも恥ずかしかった。でも今回の『トップ…』は違いますよ。世紀の名作ですからね。だってね、本当にオレこの作品が大好きなんだもの」
うろ覚えですがこんなこと言ってました。だから喋る喋る。
個人的に『トップ』は『カリ城』『オネアミス』『ラピュタ』に続く生涯ベスト4位の作品です。ただし人への奨め方は難しい。つーか奨めません(笑)。オレも最初友人に奨められた時は、そのオタクちっくなタイトルとパッケージでかなり抵抗がありました。
「とにかく2巻までは見てくれ」
まずはこう説明するしかないのですが、その明らかに不必要なお色気コスチュームや美樹本春彦のおたく媚媚キャラデザインなど、障害は果てしなく多い。まぁ今となっては「ガイナックスの庵野さんの監督デビュー作だよ」というのが一番入りやすいのかも知れませんが。
『トップをねらえ!』は全3巻・6話構成のOVAでした。その一般人がとっつきにくいタイトルやパッケージの作り方も、岡田に言わせるとわざとなんだそうです。この高いハードルを越えて見てくれたアニメ好きにだけ、本作品を贈りたいと。テーマは『アニメを信じていて良かった。と思ってもらえる』ことだと。アニメオタクに、自分の青春は間違っていなかったと思ってもらうことだそうですよ。
おそらく当時もムックなどで読んだ話が結構あるのでしょうが、色々な裏話がきけました。1話の雰囲気からはとても想像がつかない、最終話の感動の結末。コレは最終話から逆算してどの位のギャップがあれば良いかを考えたのだそうです。当時1巻7,800円だかしたそうですが、その値段分の本当の価値って何だろう。どうすれば満足して、何回も見てもらえるだろうと考えた時に、それは「大感動」しかないだろうと。
でその「大感動」とは何かと考えると、絶対的な出会いと別れじゃないか。それも「時間の違い」による別れなんじゃないかと。じゃあ最終話でまずこれだけのラストを用意しておき、そこに至るまでのステップを考えると第一話はこんなトコロから始まるんじゃないかと。第一話が信じられないくらい低い位置から始めたら、六話の位置もずっと高くなるだろうと。
しょっぱなはノー天気スポ根パロディで始まるこの話は、二話のラストですでに本格SFへの片鱗を見せます。この二話の脚本は唯一岡田がちゃんと書いたそうです(他は山賀現社長)。で、この1巻の第一話から第二話後半への移り変わりも、『トップ』全体の縮図なんですね。確かにこの二話のラストがなければ2巻は買わないと思う。この二話のラストで、なんだかちょっと違うかも…と思っちゃうのですよね。そして三話に行く頃にはもう…。という寸法。
「トップにオリジナルなし」と岡田は言い切っていますが、音楽の田中公平(番組のゲストです!)は最後の方に向かうにつれてオリジナル曲を増やしていったそうです。で、それに対して庵野監督が何も言わなくなっていったのがとても嬉しかったそうです。最後のエンディング、何度見ても泣けますが、田中氏自身も、「最後のテロップが流れて自分の曲が流れて…自分の曲でこんなに感動したことはない」と言っていました。
氷川竜介氏の「アニメマエストロ」コーナーは、文字に対するこだわりについて解説してましたが、もうオネアミスの頃からサイン(看板や案内)とか計器類のデザインの凄さは我々ファンにとってもう当然の事で、エヴァにいたってそれは完全にガイナックスカラー(庵野カラー)みたいに捉えられ、あちこちでパクられることになる訳です(オモロい皮肉ですが)。で、今回「へぇー」と思ったのは岡田氏の解説。庵野監督は、あのタイポグラフィーやサインデザインで、優秀なアニメーターの仕事を少しでも「動き」の方に持っていきたかったのだと言っていました。サインや文字デザインをちゃんと作ってあげれば、止め絵でもたせることができる。時間が稼げるのですね。で、その分アニメーターは動きのあるシーンに注力できる。もちろん単純にこだわっているのが第一なんでしょうけど。
だってね、オネアミスの発射のシーン、トップの合体シーン、バスターマシン3号の再起動のシーンなんて、計器の動きだけで鳥肌が立つわけじゃないですか。あと氷川さんの解説で、日常シーンでサインをきちんと書くことで、文字の裏に人がいることを感じられる。だからラストでは、文字だけであんなに感動させられるんだ、と言っていて。それもなるほどーと思いました。
SFの元ネタとして岡田氏はハインライン『宇宙の戦士』に対するアンチテーゼとしてのジョー・ホールドマン『終わりなき戦い』を挙げてたけど、ハインラインでも『夏への扉』ってゆうウラシマ効果を使った傑作、あるよね。そーいえば。
夜話シリーズはゲストによってその出来が大きく左右されるのですが、今回のゲスト、アメリカザリガニと脚本家の佐藤大氏も良かった。「そうそう、そこなんだよ」というツボをちゃんと視聴者に替わって代弁してくれる。とくにこの『トップ』という作品はもう余計な話をしちゃうと収拾つかなくなっちゃうんでね。
とにかく、カタルシスなんですよこの作品は!!気持ち良いツボを究極まで押してくれる。そして「ウケを狙う」ってカッコイイ!!と知らしめた最初のアニメ作品。ちゃんとウケを狙うことの大切さ、カッコ良さを知った作品でもありました。パロディーに関してはこの後ガイナックスの十八番みたいになっちゃって、そればっかりかよ…になっちゃうのですけどね。
冒頭の岡田氏のこんなセリフが印象的でした。
「これと『王立宇宙軍』があるから、オレは心置きなく、アニメをやめることができた」
今この時期で『トップをねらえ!』を振り返ることができて、ホントにシヤワセです。BSアニメ夜話はなんとこの後に劇場版『トップをねらえ!』『トップをねらえ2!』を放映しており、アニメ夜話の直後に感動を再体験できたのもよかった。『トップ2』に関しては…機会があれば感想を書きますが、「SFがファンタジーになっちゃった」カンジでしょうか。でも「1」とリンクしてる部分は良かったですよ。で、Wikiなんか見てると『NextGeneration』とか、あー、あったあったみたいなの思い出して。特に『コミックガンバスター』ね、コレ最高のファンブックでした。どっかに残ってないかなぁ。
あと万が一このエントリを読んで『トップ』を見ようと思った人は、劇場版は絶対にやめてください。この作品は30分ごとの切れ目だとか、オープニング・エンディングまで非常に重要なのです。劇場版は、OVA版を何回も観た人用ですね。
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