白石正明『ケアと編集』(岩波新書)読了。
公式サイトの紹介文が面白い。
「もはやこれまでと諦めてうなだれたとき、足元にまったく違うモノサシが落ちている。与えられた問いの外に出てみれば、あらふしぎ、あなたの弱さは克服すべきものじゃなく、存在の「傾き」として不意に輝きだす──。〈ケアをひらく〉の名編集者が一人ひとりの弱さをグッと後押し。自分を変えずに生きやすくなる逆説の自他啓発書。」
みんな大好き「ケアをひらく」シリーズの編集者が、医学書院を定年退職し世に問う一冊。
「ケア」と「編集」の共通点を紐解く内容ではあるが、その過程で「ケアをひらく」の歴代の名著達のおさらいと裏話などが読めて、同シリーズのファンとしてはシリーズまとめ本としても読み所満載。(『精神看護』誌の「ケアひら」特集号も欲しい!)
そしてここで説かれる「ケア=編集」とは、いついかなる場でも役に立つ超実践的思考法でもある!
ケアとはなにか。
それ自身には改変を加えず、その人の持って生まれた<傾き>のままで生きられるように、背景(言葉・人間関係、環境)を変えること」(同書あとがきより)
これはあくまで結論であって、ここに至るまで、あちこちでどれだけ日々覚えておきたい箴言が散りばめられてることだろう。間違いなく付箋だらけになってしまう一冊(自分は下端を折ってしまうのだが)。
未来ではなく現在のために考える
話すこと自体を目的にする
中動態の大切さ
接続詞はドアを閉める
発達障害者の見え方聞こえ方
などなど…とにかく山ほどあって書き切れない。そして何より、面白い!
面白くて、しかも内容が濃すぎるせいか、読了に時間がかかった。しばらく読むと受け取ったものの多さに圧倒され、休みたくなるのだ。こんなに面白いのに数週間かかった。
『逝かない身体』『リハビリの夜』『どもる体』『べてるの家の「非」援助論』『在宅無限大』『あらゆることは今起こる』など、名著の数々の裏話が登場するが、『逝かない身体』『リハビリの夜』などはもう十年以上前で内容をすっかり忘れてしまっていたから、名著をもう一度さくっと追体験する楽しさもあった。
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同書発行後に本屋B&Bで開催された牟田都子さんと白石正明さんのトークがこれまた面白かった(アーカイブ視聴)。
特に白石さんの職歴で、かなりお堅い文書の校正を10年やって「芽が出なかった」話とか、「ケアをひらく」以外の医学書医院での仕事の様子とか、そのバランスとか。校正者としての見方の共通点とか。今後の期待できる展開(翻訳者とケアをひらく、誰だろう!あの人かな?)とか。
何より今までまったく知らなかった一人レーベル「ケアをひらく」の編集者が、人間としてどんな人かってのを垣間見れる対談でした。トークを買って良かった。あと牟田さんて、トークでも聞き手でも何でもイイっすよね。本とこラジオで聴いた時から大好き。あらゆる対談の聞き手を彼女にやって欲しい位。
【対談でのキーワードメモ】
索引が大好きな
チクチク仕事とこれらの仕事とのバランス
医学書院では専門外だったから企画が通りやすかった?
版元の特性
○○じゃない で作る
本には出ていない裏側
伊丹十三の話
ケアをひらくと翻訳家
社会的な信と、自分の中に探してしまう信
書かなかった分母の大きさを理解してくれている人・校正者
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