after6junction 『渡辺あや特集』by岡室美奈子(早稲田大学教授)。
よくぞやってくれました。というか、今まで1回もやってなかったのにびっくり。
朝ドラ『カーネーション』で一気に知られることになった脚本家・渡辺あやさんは、そもそも手掛けている作品自体がそんなに多くなくて、wikiで出てくる殆どの作品を自分は観ている。
(『その町の街のこども』は何故か配信をやっていなくて未見なのがなんとも悔しいのだけど)
元々雑貨店経営&主婦をやっていた女性が、岩井俊二のシナリオ応募コーナーで見初められ、『ジョゼと虎と魚たち』で脚本家デビュー。その後いくつかの映画を経て、初めての連続ドラマ脚本が『カーネーション』というのもすごい。
今回は尺の関係か話を絞ったのだと思うのだけど、渡辺あやさんはあちこちの取材で「プロデューサーとの相性を大事にして、プロデューサーの「人」を見て、その人がやりたいと思った企画を実現する」「その人が本当に自分の中から「描きたい」と思った題材かどうかが大事」というようなことを語っている。
自分が描きたい題材なんて特にないし、社会派という訳でもない。ただ製作者が心から描きたいと思った題材に共感できたら、それを一緒になってできるだけ実現する、というような話だったと思う。
つまり渡辺あやさんの来歴を語る時には、だれが企画をはじめて渡辺あやさんを口説き、製作したか。というプロデューサー話がセットで聴きたいんだよね…。
たとえば『ワンダーウォール』の企画を渡辺に持って行ったのは、当時まだ駆け出しだった(たしか)NHK京都のプロデューサーで、そのしつこい情熱にほだされて、当時多くの製作者が口説き落とそうとしてできなかった渡辺脚本を勝ち取った、みたいな話だったり。
『エルピス』の佐野亜裕美Pは脚本ができているのに実現できず、TBSを退社し、5年越しでカンテレで実現した(その間、やりたかったことを先に実現するために渡辺さんはNHKで『今ここにある危機とぼくの好感度について』を書いた)というなりゆきだったり。
一貫して彼女は「単純な二項対立を避ける」「その中でも個人は変わっていける」というとを描いていると岡室さんは語っていて、なるほどと思う。
最後、特にスッキリする訳ではない。巨悪を倒す訳でもない。ポイントはそこではない。だけど本当に感動してしまう。そんなドラマの特徴って、大好きな野木亜紀子さんとも通じるところだよな…。でもその一部分は、今の地デジで通すための作り方でもあるのかも。
もちろん、制限や縛りが名作を生むことは多々ある訳で、今の我が国メディアの、何1つお上には文句を言えない閉塞・窒息状態は、ある意味名作を生む土壌になっているのかも知れない。いやいや、全然良い状況ではないですよ。最悪なんですけど。