『ブルーピリオド』実写映画版をAmazonレンタルで。
監督は萩原健太郎(『サヨナラまでの30分』)
原作は連載開始当時からのファン。
【あらすじ】
高校生の矢口八虎は成績優秀で周囲からの人望も厚いが、空気を読んで生きる毎日に物足りなさを感じていた。苦手な美術の授業で「私の好きな風景」という課題を出された彼は、悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみる。絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を抱くようになり、またたく間にのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するが……。(映画.com)
【感想】
大傑作の実写化だと思います。
原作は大好きだけど、その魅力を実写化によって更に引き出していると思う。同じ座組で続編を作ってほしい。
ほとんどケチのつけようがない位。
原作好きで躊躇しているところあったけど、原作未読の @9falcon9 が良かったと言ってたおかげで、遅まきながら観ることができた。ありがとう〜!
キャストの素晴らしさ
眞栄田郷敦を使ったのがまず大勝利。正解のない、自分自身の中に奥深く潜りこむことだけで腕を磨いていく世界。その深みを、暗部を、彼の目つきや身体の動きからしみじみと感じる。すごい説得力。(メインキャストは相当絵の特訓したらしいし、エキストラは皆美大生か予備校生)ちゃんと「暗い」映画になってる。
最近あまりにひっぱりだこでやや「またか…」感のある薬師丸ひろ子。本作では冒頭からその説得力で泣かせる。一瞬で美大受験の世界に入り込めたのは、彼女の力がでかい。
主人公が絵画にのめりこむきっかけになる森先輩(桜田ひより)さんの、間のかんじ。あーこういう人いそう。見事。
一番実写化が難しいと思ってて(実写化を怪しんでいた要因でもある)主人公の幼馴染みで女装の男子、ユカちゃん(高橋文哉)も見事にハマってた。これは、連載当時から時間が経って、高校で女装の男子という存在に、当時ほど違和感がなくなったこともあるかもね。そういう感覚の移り変わりって早い。よくもまぁこんな演技ができたもんだ。
世田介くん(板垣李光人)も原作そのまんま。
新潟地元パイセンのあの有名な美術家さんも先生役で一瞬出ます笑
「本物」を使う凄み
原作マンガでは、実際に美大生や生徒や作家が描いた絵画を作中人物の作品として使っていて、だから説得力があったのだけど、これが実写化になって更に凄みを増しているのが凄い。こうゆう「作中作品」のリアリティってめちゃくちゃ大事で、ここで「薄目で観ないと耐えられん!」て作品は山ほどある訳で。
(原作ファンだと「あの絵じゃん…泣」ってなるよ。同じ作家にもう一度描いてもらったそうです)
石膏デッサンが並んで実力の違いが分かるところなんかも凄いし、武蔵美や藝大その他がおかしな変名を使わずにすべてそのまま描かれているのって、入り込む要素としてめちゃくちゃ大事だと思う。
美術もすばらしいし、衣装や部屋や小道具のルック、こういうところで「ひっかからない」つまり「気にならない」ことが傑作の条件だし、それって実は奇跡みたいなことだと思う。
映像の美しさと劇伴
カメラアングルが、この映画の主題に合わせ全体に絵画的。グレーディング美しい!自分はもう「原作無しのオリジナル映画」として今作を観ることはできないんだけど、普通にすごいクオリティの邦画じゃね?と思う。
劇伴。YOSASOBIの『群青』使わないの?って予告時点で思ったけど、観ると全然納得。この映画は、もっと重い。
原作の良さがそのまま出てる
男女色恋沙汰がないこと/進行のために悪者を安易に出してこない/など、原作の良さがちゃんとそのまま維持されている。
(映画向けにちょっと色恋を…なんてことしたらもうOUT。そんな失敗例も山ほどある)
苦言
少しテンポがゆっくりなので、これは映画館向きの映画だと思う。
幼馴染みユカちゃんとの関係や、彼の苦悩については、もう少し掘り下げられても…と思う。原作ファンは脳内補完であまり問題はないのだけど。
これから
原作者は今作を受験マンガに留まらず、藝大マンガ、その後のプロの世界も描いていくつもりらしい。本連載は今、藝大生活からプロの片鱗が見えているところ。
繰り返すが、同じ座組で藝大編・プロ編が観られたら自分は本当に嬉しいです。
友人とのやり取りとか、お母さんをスケッチするシーンとか、名シーンが山ほどありました。
正直冒頭から、クオリティの高さが嬉しくてずっと涙ぐんでいたし、何なら半分位涙ぐんで観ていたような気もする。おれはちょっと極端。
山ほどあった「こうなっちゃったらOUT」の道を一つも踏み外さす、実写ならではの魅力を加えた、原作への深い理解と愛情を感じる、とっても良い作品でした。原作者もきっと嬉しいんじゃないかな。
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