映画『あしたの少女』感想

『あしたの少女』を、長岡アオーレの上映会で鑑賞。
監督&脚本:チョン・ジュリ

ペ・ドゥナが刑事役をやると聞いただけで、いてもたってもいられない『秘密の森』ラバーな訳ですが
期待に違わない(彼女が期待を違えたことなどあるだろうか)熱演でした。実話ベースの物語。
製作は『シークレット・サンシャイン』『バーニング劇場版』などのイ・チャンドン。

【あらすじ】
高校生のソヒ(キム・シウン)は、担任教師から大手通信会社の下請けのコールセンター運営会社を紹介され、実習生として働き始める。
しかし、会社は顧客の解約を阻止するために従業員同士の競争をあおり、契約書で保証された成果給も支払おうとしなかった。
そんなある日、指導役の若い男性チーム長が自殺したことにショックを受けたソヒは、自らも孤立して神経をすり減らしていく。
やがて、凍てつく真冬の貯水池でソヒの遺体が発見され、捜査を担当する刑事・ユジン(ペ・ドゥナ)は、彼女を自死へと追いやった会社の労働環境を調べ、いくつもの根深い問題をはらんだ真実に迫っていくのだった…
(公式サイトより)

【感想】
映画的な演出は最小限。
特に前半は、想像以上に辛かったが、後半でペ・ドゥナ演じる刑事がいくらかは気持ちの良いセリフを吐いてくれて、少しは救われる。

この映画のヒットのおかげで、韓国では通称「次のソヒ防止法」が議会を通り、現場実習生に労働基準法で定めるいくつかの条項が適用され、世の中を動かしたらしい。(決してこの映画が最初ではなく、これまでも長い間同様の訴えや活動は行われていたが、実行に至らないまま何度も尻つぼみになっていったそう)
それが2023年、ついこの間の話。

自分ではなかなか観に腰をあげることはなさそうな内容だったので、上映会のお知らせはとても有り難かった。無料とか、自分に対する行く言い訳ができる。

映画は、高校生のソヒが自死に至るまでの前半パートと
刑事ユジンが彼女の周辺を調査する後半パートに別れていて
これがほぼ1:1のボリュームというのが少し意外だった。(普通なら後半多めじゃないかな)

前半パートでは、女子高生ソヒがどんな子で、何が好きで、友達とどんな風に接していたのか、日々のストレスをどうやって解消していたのか、本当に丁寧に、繊細に、まるでドキュメンタリーのようなリアルな演出で粛々と、結構な時間をかけて描かれる。職場のコールセンターには韓国ドラマで良く出る「仕事場の怒鳴りおじさん」が山ほど出て来て、分かっちゃいるけど辛い(自分はこれが苦手で『ミセン』を離脱した)。おじさんだけではなくトドメを刺すのはオバさんで、また辛い。

しかし前後半通じて何回か、身体がビクンと反応する位、痛快な「やり返し」シーンがある!
その行動やセリフに一瞬カタルシスが満ちあふれる。一瞬だけ。
これなかったらまた一層辛いんだろうな。他にもユジン(ペ・ドゥナ)の相棒役も良かったなー。秘密の森やシグナルの名相棒達を思い出す(そうして、なんとか辛さを逃れる)。

映画の最初と最後に、ソヒが一人でダンスを練習しているシーンが流れる。最初は同じように見える2つのシーンの違いに、胸を突かれる。

ソヒの両親は娘が死ぬまで、ダンスに打ち込んでいることを知らなかった。極端な学歴社会、階級社会が大きな要因だろう親子の断絶が、この映画の裏テーマじゃないだろうか。同じ年頃の娘を持つ親としてまったく他人事じゃない。若い世代に「夢を見ろ」と言いながら実際は社会の既存構造の中でしか「夢」を認めない・許さない親世代。そう思う理由も、同じく学歴・階級社会から来るものだろう。このまま繰り返していいのか。映画は鋭く問うてくる。

ペ・ドゥナきっかけで行った映画だけど、ソヒ役のキム・シウンが素晴らしかった。この内容の映画を、何十人もの人達と同じ空間で見つめる体験も良かった。多分いつも行くシネコン夜間上映などでは片手にも満たない人数だろうから。あれだけ多くの人と一緒に、息を呑むような絶望を感じるのは、強烈な体験でした。観に行けて良かった。

チョン・ジュリ監督の前作『私の少女』でもペ・ドゥナは刑事役らしいので、そちらも今度観てみたい。できれば映画館がいいのだけど。

今回の上映は「ながおかワーク&ライフセミナー」のさまざまな5講座の中の1つとして「長岡アジア映画祭実行委員会!」が開催していました。感謝。

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