映画館で。以下ネタバレあり。カッコイイボクシング映画を観たい方は是非。オススメ。
1ミリも共感できない徹底的なダメダメ30代自堕落女子・主人公一子(いちこ)は、子持ちの出戻り妹と喧嘩し、弁当屋の実家から飛び出て一人暮らしを始めることに。生活費を稼ぐために、いつも夜中に買い食いしていた100円コンビニでバイトをはじめ、そこでさまざまなダメ人間達と出会う…。
ここまでの展開は本当に辛い。好きになれる人は一人も出てこないどころか、具合悪くなりそうなすげーイヤな奴も登場。あーもーどーしよーと思うばかり。本当に役者陣がすごくて、徹底的にリアルで感じが悪い。あーいるいるこんな人たち、でもワザワザ映画で見たくないんだよなぁ。というアレです。一子が恋する中年ボクサーも、ほんとにボクサーとか土方近辺で見かけるタイプで「こういうやつ、いるわー。考えてることもう筒抜け」。「オス的魅力」は確かにあれど、それ以外は個人的に興味持てないです。一子もね。見事に良いところ無しダメ女を演じている。
それが、中年ボクサーにふられたことをきっかけに急変する。一子が本気でボクシングに力を入れ、ありえない変身が始める。町中で、バイトしているコンビニで、河岸の道路でフットワーク&シャドウをしている彼女は、それまでとは明らかに違う。本当にカッコよくて、美しい。ここからはまさに『ロッキー』!前半どうしようもなかった分、ここでぞくぞくっと痺れが走る。
全編通して音楽の使い方がすごく印象的。映像に合っている、というよりも音楽が一つのキャラクターを持って映画の大事な一役を担って参加しているような気になる。こんな体験は、あまり覚えがない。
一子の動きは、素人目にも女優の付け焼き刃には見えない。それもその筈、安藤サクラは中学生の時にボクシングをやっていて、『ガール・ファイト』という映画を観たのをきっかけに「いつかボクシングの映画に出たい」と思い続けていたそうだ(パンフレットより)。
後半の彼女はとにかくかっこいい。涙が出るほどカッコいい。コンビニ店長を一撃でやっちゃうとこのスッキリ感たるや!(笑)ここではもう、前半のクズのような一子への思いは消えてなくなっている。そうだ、彼女はボクサーになるために生れてきたんだ。そう思えば、色んなことが納得だ。
最後の試合、リングに上がるまでの長廻し。彼女の鬼気迫る表情。動き。このカットは今まで見たボクシング映画の中でも最高だ。
他には…
●一子が風邪引いた時にユウジがなんかすげえ厚い(でもきっとすげえ安物)の肉を焼くとことか、マジどうしようもない。なんで風邪の時にステーキなんだよ。延々と噛み切れずに、箸が折れても齧り続ける一子、あのシーンすごいよなぁ。奇跡だな。ずっと笑ってました。
●パンフレットには撮影の裏話が色々出ているけど、驚愕なのが一子の撮影の順番。スケジュールの関係で「部屋は部屋」「ジムはジム」でまとめ撮りしているので、順撮りができていない。甥っ子と2人でボクシングゲームをやっている後ろ姿が最初と中盤で出てきて、その体つきの変わりっぶりに誰もが驚くと思うんだけど、これ実は同時期に撮っているらしい。撮影の前に少しスパーリングをするだけで体つきを変えているんだって。安藤サクラは「わたしの得意技です」だと(笑)。髪を切ってからは順撮りになったそうですよ。
●タイトルに「–恋」ってあるけど、これ恋の映画かな…。おれはあんまりそう思わないし、人に紹介する時も「後半は『ロッキー』みたい」って説明すると思うな。
●トレーナー役の人、良かったなー。役者に技術指導している方らしいんだけど、演技の範疇を超えるリアル感を出していた。この人の存在は大きい。
エンディングも良かった。終ってパンフレット読んで裏話も知って、脇役のプロフィールなんか見ているうちに、あれだけイヤな奴だらけだったけど、何故か皆愛おしく思えてくる。あれだ、『サウダーヂ』観た時にも似てる(→感想)。最後にユウジがまた食事に誘うのとか観ながらう〜ん。複雑な気持ちなんだけど。でもなんつか。結局愛おしいよ。
★★★☆☆
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