映画『ラジオ下神白』感想

『ラジオ下神白』を新潟市ほんぽーとの上映会(監督トーク有)で。
監督:小森はるか

【あらすじ】
いわき市にある福島県復興公営住宅・下神白(しもかじろ)団地には、2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故によって、浪江・双葉・大熊・富岡町から避難してきた方々が暮らしている。

2016年から、まちの思い出と、当時の馴染み深い曲について話を伺い、それをラジオ番組風のCDとして届けてきたプロジェクト「ラジオ下神白」。2019年には、住民さんの思い出の曲を演奏する「伴奏型支援バンド」を結成。バンドの生演奏による歌声喫茶やミュージックビデオの制作など、音楽を通じた、ちょっと変わった被災地支援活動をカメラが追いかけた。(公式サイト)

【感想】
もう避難ではなく、日常になっている下神白団地の皆さんの暮らしを、ラジオ下神白プロジェクトを通して描く。

震災から12年も経ち、あの時の気持ちを忘れかけていた中での能登半島地震。自分の住む西区も家が傾いたり損壊して避難や建替・修復を余儀なくされている方々がいる。自分は「たまたま」逃れただけ。避難生活はこの国の、もう1つの日常だと思った方がいい。想いの丈を詰め込んで家を建て、考えられないくらい長期のローンを組んで、なんとかギリギリで生活していても、明日にはすべてを失い、何の備蓄もない寒い体育館や知らない団地で住むことになるかも知れない。

そうなった時の幸せや喜びってなんだろう。

「話を聞いてもらうこと」「音楽を共に楽しむこと」の大切さを、この映画で改めて実感する。

自分には一番できない「傾聴」「ただ寄り添う」ことを続けるラジオ下神白のメンバー(恐らく20代くらいの若者ばかり)。ラジオもそうだが、その前の「ただ聞く」映像を見ていて、住民の皆さんがどれだけ救われているかが伝わってくる。若者たち本当にありがとう、と思う。このプロジェクトがアーツカウンシル東京による「アートプロジェクト」の一環として行われているのも嬉しい。

原発避難の方達が住む下神白団地、その向かいにある永崎団地は、津波避難の方達が住む。放射能から逃れる避難と、津波や地震で被災したケースでは賠償額が違い、そのことで大きな分断を生んでいるという。

このことに限らず、原発は本来不要でしかも決定的な分断を生む。その分断の様子は数字には表せないから政府や公務上では大きく捉えられず無視される。原発の一番許しがたい作用がこの、あらゆる分野での「分断」だと自分は思っている。だから反対する。

映画ではこの分断は直接描かれないが、最後に永崎団地の集会所で合同のカラオケ大会が開催される。

避難して団地に住む住民、という代名詞のような括りではない、ひとりひとりの暮らしが、歴史が、豊かな人柄がスクリーンに映され、淡々と続いていく。そのことがかえって、この映画を忘れられなくさせている。上映後にトークでも話されていた『阿賀に生きる』にも通じる手法。今作もこれからずっと上映され続け、今は亡くなった方々に想いを馳せ未来へ繋ぎ続ける、依り代になって欲しい。

映画はコロナ禍の冒頭で終わる。高齢者の多い団地に東京からの若者が来訪するなぞあり得ないという世界に急に変わってしまう。あの年の様子、自分は特に2021に父を亡くした経験も含め「やっぱzoomじゃだめなんだよ」の気持ちを思い出させる。メンバーも住民の皆も、さぞかし辛かったと思う。

この10数年で大震災と、津波と、放射能と、コロナと。1つだけでも信じられないような厄災が立て続けに襲ってきたんだよな…今後もきっとそうなんだろう。

自分の両親への至らなさを思い出し苦しくもなるが、自分にできることをやっていこう。
映画の読後?感は『ワンダーウォール』を思い出した。見えない壁。
あれも最後は皆で踊っていた。

上映後のトークでは小森監督の次回作の構想も少しだけ語られた。これもすごく楽しみ。
『ラジオ下神白』、上映の機会があればぜひ。

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