『SING SING(シンシン)』をユナイテッド・シネマで。
監督はグレッグ・クウェダー(長編初作品)
【あらすじ】
無実の罪で収監された男、ディヴァイン「G」は、刑務所内更生プログラムである「舞台演劇」のグループに所属し、収監者仲間たちと日々演劇に取り組むことで、わずかながらの生きる希望を見いだしていた。そんなある日、刑務所で一番の悪人として恐れられている男、通称ディヴァイン「アイ」ことクラレンス・マクリンが演劇グループに参加することに。そんな中で演劇グループは、次の公演に向けた新たな演目の準備に取り掛かるが……。(映画ドットコム)
【感想】
90%以上黒人のおっさんしか出てこない激シブ映画ながら、実に優しく心強く、生きてく希望を感じさせる大傑作!!
そう、みんなこうやって生きていけば楽になるんだよ。
最後も気持ちいい。気持ちいいだけではなく、刑務所や法制度について色々考えさせる。
※『SING SING』というタイトルだけど別にミュージカルではないです。舞台になっているシンシン刑務所の名前で、元は先住民族の方がつけたその土地の名の、当て字だとか。
ほぼ刑務所の中だけで物語が進む、まるで舞台劇のような、会話劇のような。
アメリカ刑務所映画には当たり前にあった暴力、イジメの話が、意図的にほとんど排除されている。
イジメがない…まずこれがとってもfor meだ。
そのことも影響しているのか、途中まではどうしても「この人たちの罪状は?」が気になっていたのだけど、そのうち自然に気にならなくなる。「「罪人」としてじゃなくて、自分達と同じようにフラットな目線でそれぞれの事情を聞くのが当たり前なんだ」と思ってる自分に気付く。
加えてこの黒人の多さ。アメリカの司法制度が大いなる階級差別と人種差別の上に立っていることは常に問題になっているし、だからこそ「どんな罪を負って」を前提にして語ってはいけないのだ、ということにもうっすら気付いていく。(それについてはパンフレットの冒頭にむちゃくちゃ秀逸な「言葉遣いの注意」が書かれている。日本の映画パンフレット文化バンザイ!)
演劇の効能については、ブレイディみかこさんの書籍で読んで、なんとか小学校中学校のカリキュラムに取り入れてもらいたいと思っていて、「いきなり本読み!」では自分もその恩恵にあずかろうとしていた気持ちも、ややある。
だから弱気な感情を出すことが「オス的に負け」となってしまう刑務所内において、「感情を出せる」という演劇の効能が、どれほど大切なことかも、とても良く分かる。
(男性性からの解放という意味では、これもある意味フェミニズムとも繋がるように思う)
「俺たちは人間に戻るために集まっている」
(演劇チームの一員のセリフより)
最後のクレジットで、「AS HIMSELF」と書かれた役者名がずらーっと並んでいることに、驚愕した。(事前情報無しで観に行った)
まさか主役の一人まで本人だなんて。観終わった後も信じられない位。
刑務所モノなのに、なんて優しい。
プロセスを大切に、という大切なメッセージが染み入る。
めちゃ好きな映画でした。「最高刑務所映画」も更新されたね。
以下ネタバレ感想と感想Podcastについてメモ。
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●練習の前に「皆目を瞑って。今までで自分が最高だった時を思い出して」とか、あのWSの時、自分も目をつぶっちゃって考えて、あ、でも観れない!でも、とかおかしな状態に陥ってた。
●演劇の先生役がいい。あまりに良くて「この人死んじゃうんじゃね?」と思ったけど、そんな安易な作劇のための展開にはならなかった。いい。
●先に出所した先輩が話す体験談。あそこ泣いた。
●「今も演技しているの?」あの史上最悪・超・糞質問な。あの時の彼の表情たるや。
●パンフレットはボリュームだけ見るとイマイチ、に見えるのだがその内容がすべからく良いので買いです。キャストの紹介だけでも感動するって何よ。これだけの当事者起用が為されたその裏側が分かるプロダクションノートが、もう一度感動を呼びおこす。
■鑑賞後のお楽しみPodcast紹介。どれも良かった。すごく楽しめた。
「映画雑談」…アメリカ刑法における根深い人種差別やRTAに関してぐっと解像度が上がる。
「沖映社」…男性同士のケアについて解像度が上がる。男らしさからの解放につて。
「ウチらがエンタメ語って光になるまで」…アートの役割について解像度が上がる。現実とアートとのジレンマ。
「after6junction」…パンフレットからの引用が多く、どちらかというと観る前に聴くと観たくなる、最初のガイド的内容
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