深澤孝史氏のゆいぽーとAIRトークイベント

11月15日、ゆいぽーとのAIR(Artist In Residence program)作家・深澤孝史氏のトークイベントに参加。滞在制作の映像作品上映(60分)とアフタートークという構成。ゲストはゆいぽーとの小川弘幸Dと新潟大学人文学部の藤石貴代准教授(朝鮮人文学・植民地文化)。

近年では大地の芸術祭「アケヤマ」の監修をされていた美術家の深澤孝史氏。全国各地で「共在のためのもう一つの理念を仮設して実践していくプロジェクト」を実施している彼(その説明は難しいのだが現代アートの在り方として個人的にもリスペクト)が、AIR期当初に五十嵐奈緒子さんのアテンドで当事務所にいらしていた。その時アケヤマのある津川地区の水力発電所における朝鮮人労働問題と虐待・虐殺の歴史、狩猟地域への被差別問題、隠蔽体質等についてお聞きし、その内容の断片を9/4の投稿で書いた。

今回の舞台は佐渡金山。
もともと佐渡「鉱山」だったこの場所の朝鮮人強制労働について調査を進め映像作品としてまとめること。
佐渡鉱山で唄われてきた金堀節(やわらぎ)を朝鮮語に翻訳し、できれば彼の国に届けたいというのが、彼の滞在制作の趣旨。

新潟市でなく佐渡市がテーマで、差別問題をテーマにしたこのような滞在制作を採用したゆいぽーとにまず称賛を送りたい。おかげで「世界遺産」の闇に葬られている過去の歴史を知ることができる。小川Dの話によれば、歴代AIR作家に採用報告をした中で、すぐに喜ばず「本当に採用ですか?」と驚いた作家はこれまで2人居て、深澤さんと、あの白鳥建二さんだそう。

今回の映像作品の解説文を引用する。

「佐渡、もう一つの世界遺産」は、佐渡鉱山の朝鮮人強制労働問題に取り組んできた人たちのお話をまとめた記録映像である。1991年に朝鮮人鉱山労働者の名簿が見つかり、佐渡と新潟の人を中心に調査活動が始まり、直接韓国へ向かい事者を確認、佐渡に招請するなどの交流をしてきた。2024年に「佐渡島(さど)の金山」として世界文化遺産登録されたが、江戸期に限られており、近代以降の開発や植民地主義の歴史などは含まれていない。むしろ世界遺産の理念に則っているのは、忘れ去られつつある朝鮮人労働の問題を主体的に究明しようとした彼らの平和活動こそ世界遺産にふさわしいのではないだろうか。当事者や調査活動をしてきた人たちが徐々に亡くなっていく中で、現在生きる私たちがどのように引き継いでいけるかを一緒に考えていきたい。


以下はトークのメモ。録音などしていないので間違いあるかも知れません。

●当時の労働者への聞き取り。「佐渡が1番悪かった」「逃げられない」「日本語の上手い人が逃げた」「佐渡の金山この世の地獄」

●日本全体が必至増産(漢字合ってるか不明)の風潮の中で、日本人でさえ「労務徴用」されていた時代。「強制」労働かどうかは、議論するようなレベルのものではなく当たり前の前提。

●佐渡扉の会などが佐渡と韓国を繋いでいたのだが、世界遺産登録は江戸時代のみで近代以降の開発や植民地主義などは含まれず、登録後は追悼慰霊の式典も両国で分断されてしまった。

●「差別のあるところに公害が来る」

●芸術祭は理念と運営(経済)の折り合いが問題だが、難民をテーマにした瀬戸国際芸術祭の例もある。佐渡もそうなるといい(深澤)。

●佐渡の街角インタビューでは8割の人が「強制労働はなかった」という認識。反省のできない我々。戦争の引き継ぎが苦手な我々(深澤)

●こういうテーマはえてして活動家的なものとして扱われやすい。今回のテーマについて「それでアートになるのか」と問われ即答しなかった深澤氏を自分は信じている(小川)

●媒介であればすべてアートになりうる。それは時にファシズムの始まりにもなるが、コミュニティアートは海外であればマイノリティを繋ぐものだ。


●2021年、「従軍」慰安婦や「強制」労働などの記述を無くす閣議決定がされる。どんどん進む歴史修正主義。なかったことにされないようにしなくては。
(藤石先生をはじめ、この閣議決定に抗議する文章は検索するとすぐ出てくる。表現を変え徐々に強制労働をなかったことにしたい政府側の策略が透けて見える。歴史修正というのはこのようにも行われるのだ)

映像作品は当初の二人の語りがかなり聞き取りづらく、ほぼ把握できなかったが(今後字幕を付けて欲しい…)その後は良好に理解できた。扉の会の重要人物の娘さんが同じ幼稚園のお母さんで、彼女が多く出ていたことにも驚いた。差別と隠蔽の歴史について、またそれと対峙してきた人のことが良く分かる内容だった。藤石貴代准教授の、とても真摯で誠実さの伝わるコメントも強く印象に残る。

今後は11/24(月祝)まで発表、上映があるらしい。60分なので時間に余裕を持って行きましょう。

強制収容所を忘れないように負の遺産として登録する他国。
数々の強制労働や差別・虐待の歴史を「自虐史観」と称し、なかったことにしたがる私達。
いつか、変わっていきますように。

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1999年のWEB日記時代から始めた個人サイト。ブログ移行にあたって過去記事も抜粋してアーカイブしています。
(HTMLサイト→SereneBachブログ→WORDPRESSブログと転移)

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