アンディ・ウィアー『火星の人(ハヤカワ文庫SF)』読了。
他のすべての予定をなげうってでも、ひたすら読みふけりたいと思わせる、久しぶりの読書体験だった。大傑作!!サイコー!!
このレビューを書いている今日現在、アメリカのAmazon.comでは原作本『The Martian』に5000人超がレビューをし、そのうち3650人が5つ星の評価をしているSF長編です。
〜Amazonレビューより
日本では2016年2月に劇場公開される映画『オデッセイ(邦題)』の原作小説。
トラブルに見舞われ中止&途中帰還となった有人火星探査ミッション。脱出時に死亡したと思われ、火星に只一人取り残された植物学者でエンジニアのワトニー。彼がなんとか地球に帰還しようとしてあがく、底辺サバイバル生活を描く。
どうしたって暗く息が詰まるような状況の連続なんだけど、主人公の常にユーモアを忘れないモノローグのおかげで、最後まで楽しく読めるという不思議な小説。
以下多少ネタバレあります。
火星に取り残された絶望的な状況から地球に帰還するまで、主人公ワトニーは常に冷静で、どのような時でも決して諦めない。周りの状況を客観的に判断しながら打開策を見つけ、身の安全のために必須だが同時に退屈で膨大なチェックを淡々とこなし、考えられないような地味な単純作業を愚痴ることなく続け、絶望的な状況を少しずつ改善し、可能性を見出していく。まさに宇宙飛行士かくあるべきという理想の姿。なのだけど彼のモノローグは常にギャグを挟んだおちゃらけムード。この組み合わせがなんといってもすごい!ギャグが楽しみで読み進むSFなんて初めてだ。(日本の作品ではどうしたってうまくいかないだろう)
物語の途中からは、彼を観察する地球の状況が同時進行で語られる。NASAの精鋭たち、彼らのプロフェッショナルぶりもアツい。殆どは一方通行で、ただ見守ることしかできない火星とのやりとり、そのもどかしさ。絶望的な状況でも何日も徹夜しながら打開策をも見つけワトニーに送信する「NASAのオタクたち」。アツイ。
ワトニーもプロ、NASAもプロ、プロがそれぞれベストを尽くしまくっても、それでも次々に襲ってくる予測不能のトラブル。またそれを一つ一つ丹念に解決していくワトニーがすごい。
つきつめればこの物語は「工夫」の物語なのだと思う。
(その点は『宇宙兄弟』にも似ている)
人生「工夫」さえできればやっていけるんだよ。
あとは、
どんな絶望的な状況でもアツくならずに、悲嘆せずに、冷静で客観的な見方を持つことの大切さ。
実はそのための「ユーモア」でもある訳で。ユーモアは、いわば自分をひいて見て、笑うこと。客観性なんだね。
一人残された彼の救出劇を全世界が見守るところなんかもイイんだけど、小説ではそれほどフューチャーされない。ここはきっと映画で盛り上がるビジュアルになりそうだ。
不毛な土地でたった一人延々と苦闘するという地味なプロットを、地球との通信を絡めることで見事ドラマチックに仕立て上げている。序盤の植物を栽培する云々が少し退屈な他は、最後までテンポもいい。かなりの長編にも関わらずあっという間に読み終わる。
映画化の際の主役はマッド・デイモンということを事前に知っていたので、ワトニーは最初からマン博士(fromインターステラー)のビジュアルだった。だけどこっちのマン博士は超絶明るく超絶前向きなんだよな。すごくかっこいい。だから読み終わった今、マン博士のイメージも急上昇しちゃってます。
化学・科学のネタが多数織り込まれているので、そういうのにアレルギーがある人以外には、
超オススメ。空前絶後の「K・U・F・U(fromタマフル)」物語を、是非。
★★★★☆