恐怖地デジ・前夜

いよいよこの週末で慣れ親しんだアナログ放送が終わります。車載テレビも地デジに変えることで、これまで電波が悪くてもなんとか視聴可能だった(特に「聴」)のに、殆ど見れなくなり視聴区域は大幅に減ってしまうことでしょう。アナログテレビの左下を占める糞カウントダウン文字は「明日正午にアナログ放送終了」に変わっていました。なんだ。「あと1日」になって、その次はいよいよ画面の真ん中に『24』みたいに時間のカウントダウンが始まるかと思ったのに。残念。

地デジ問題についてとても分かりやすいまとめ記事が日経PC Onlineに掲載されていました。

『アナログ放送終了から古い体制のきしむ音がする』松浦 晋也

一部を引用します。

技術的理由から高精細と衛星は不可分なのに、キー局と地方局の利権構造温存という、“人の世の理由”で技術的必然を歪めてしまったのである。私はこれまで25年ばかり技術の世界を取材しているが、人の世の理由で技術的必然が無視されたことで、悲惨な結果となったプロジェクトをいくつも見てきた。失敗の黄金パターンといってもいい。技術だけがやたらと先行するのも考えものだが、技術には物理や数学に基づく必然が存在する。それを無視すると間違いなく手痛いしっぺ返しが返ってくる。

最初のしっぺ返しは、先に述べた大変な設備更新の投資だろう。衛星なら600億円で済んだ国費投入が2兆円にもなってしまった。元を正せば私たちの払った税金である。

続くしっぺ返しは、より正しく技術を使ったライバルの登場である。現在の進歩した情報圧縮技術を衛星放送に適用すると、地上波では到底実現不可能な多チャンネル放送が実施できる。

(中略)

そこまでして地上波にこだわった理由は、利権にあった。以下、「テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか」(吉野次郎・日経BP社、2006年)という本の受け売りになる。

現在、各県に1つ地方テレビ局がある。地方テレビ局は大体その地方の地方紙の資本だ。日本の各地域には地方紙がある。昭和30年代にテレビという新しいメディアが使えるようになったものだから、地方紙各社は自分たちもテレビ局を欲しがった。自由民主党の長期政権は国の許認可権限を使って電波利用の権利を配分した。それは同時に自民党の集票マシンでもあった。

地方局には電波があるが、番組を作る能力が低い。そこでできたのが東京の民放キー局との系列関係だ。キー局は番組を作る。その番組を地方局も放送するのだが、この時キー局から地方局へ電波料というお金が支払われる。

「番組がもらえてお金ももらえる」という不思議な仕組みだが、そのからくりはコマーシャルにある。キー局は、番組にコマーシャルを集めるが、この時よりたくさんの人が番組を見る方が、コマーシャル料金を高くすることができる。つまり、地方局に番組を流してもらう方が、視聴する人が増えるのでコマーシャル収入が増える。多少地方局にお金を払ってでも、コマーシャル収入が増えるのでキー局としては地方局に番組を供給すると得するのだ。

同じ構図を地方局から見ると、自分は何もしなくとも国から認可された電波使用の権限を持っているだけで、キー局から番組もお金も入ってくるという、とんでもない左うちわ状態というわけだ。

この構図を、キー局も地方局も手放したくなかった。衛星放送は基本的に全国に電波を落とすことができる。だから、キー局も地方局も区別がなくなる。衛星放送で使う電波は周波数が高いし、情報圧縮技術も進歩しているから、キー局も地方局も平等に電波の権利を持つことができる。そうすれば猛烈な競争が起きて、今までみたいに何もしなくとも儲かる状況が終わってしまう。だからテレビ各社は、デジタル移行に合わせて全てを衛星放送に移行することに、ありとあらゆる難癖を付け、政治力を駆使して反対した。なにしろ、「全て衛星放送に移行すべき」としていた郵政省幹部が左遷される事件があったぐらいだから、その熾烈(しれつ)さも知れようというものだ。
 かくして、放送のデジタル化は技術的には不利な地上波で行われることになった。

(中略)

これほどまでに無理を重ねて推進してきた地上デジタル放送だが、末端ではかなりの混乱が起きている。今年に入ってから複数の地方テレビ局関係者と話をする機会があったのだが、主に山間部の難視聴地域はどうしてもカバーしきれず、アナログ停波と共にテレビ放送が受信できなくなる地域ができるかも知れないということだった。

その結果あきれたことに現在、新たに発生する難視聴世帯向けに地上デジタル放送と同じ番組を、放送衛星から放送するという事態になっている。それだったら最初から衛星で放送すればよかったのだ。しかも、この難視聴世帯向け放送は、スクランブルをかけてあって難視聴と認められた地域及び届け出が受理された世帯でしか受信できない上、画質もHDTVではなく従来のテレビ放送のSDTV画質という“いじわる”まで付いている。

おいおいおいおい。

ひょっとしてこの地デジ以降騒ぎの次には「全放送が衛星へ」祭りがあるんだろうか。地上波がいよいよ駄目になったらありうるかもね。

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1999年のWEB日記時代から始めた個人サイト。ブログ移行にあたって過去記事も抜粋してアーカイブしています。
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