映画『エンディングノート』の監督が書いた小説、2作目。彼女の映画の作り方と、世界の捉え方がずっと気になっていた。
「喪失」が大きなテーマで、子供も絡むので自分にとっては正直辛い気持ちにもなったけど、期待に応えてくれた一冊。スタイルとしては木皿泉『昨日のカレー、明日のパン』に似ているけど、当然空気感も読後感もかなり違う。
交通事故で子供を失った家族、その加害者となった家族、両家族に関わる男女の物語が別々に語られる。ある事象を通じた双方のまったく違う心境を交互に読む訳だけど、そこから感じる作者の人間観に恐れ入った。傑作です。少々つらいけど、お奨め。
本と関係ない話。自分はこれまで本当に薄情者で、肉親含めこの世で失って困るものなど何もないと思っていた。だけど結婚して相方と一緒になり、子供も生まれ、初めて「絶対に失いたくないもの」ができた。もし失ったら、自分が存在しえるとは思えない。すると今度はそこから喪失の恐怖がはじまった。忘れたようでいても、その恐怖は常に静かにつきまとっている。
何か大きな災害や事故で大切な人を失ったとする。人は「その事故の前の瞬間に戻れるものなら、何でもする。悪魔にだって魂を売ってやる。戻れるものなら、何でも」と思う。でも戻れない。1秒前であっても。0.5秒前であっても。彼や彼女が存在していた「あの時」には決して戻れない。
いま自分は、
「事件後の世界」から見た、
「すべてのものを捧げても戻りたい、魂を売ってでも戻りたい、『あの頃』」
に、生きているんだと思う。そう自分に言い聞かせている訳ではない。自然と感じる。時にどこか夢のように思う。いや、毎日毎日が夢のようだ。
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