引越の絡みで、久しぶりに浦沢直樹『MASTERキートン』全巻を発掘。絶版騒ぎでおそらく中古書店からもそのうち姿を消すだろうと言われてたのは、ついこないだの話。いい機会なので未読の相方の為にもトイレの中にずら〜っと並べました。んで自分も再読中。
浦沢絡みのエントリを書く際にしつこいほど言ってきたけど、オレは最近の『20世紀少年』や『MONSTER』よりも、この『MASTERキートン』が大好き。で、読み直してみてもその評価は決して「過去の美化」ではなかったことを、確認しました。
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1話完結なのだけど、その1話1話のクオリティがホントに高い。何だろう、この手の1話完結ものってさぁ、長く続くと(下手したら初期の頃から)もうパターンがね、やっぱし水戸黄門的に、美味しんぼ的に決まってきちゃうでしょ。いかにも「取材しました」的な知識がストーリーの中に「配置」されて、フツーに考えたら無理矢理な、オヤジっぽいオチが最後にあって、みたいな。
で、もう無意識のウチに読み手側が「1話完結ワンパターン様式」として、半分「アキラメの気持ち」で見てるトコあると思うの。別にソレがツマらないってんじゃなくて、その所作の上に成り立った、1話完結ワンパターンの上での、人物描写なり人間ドラマを楽しむとゆうね。タマには崩したりして。でも世界はやはり限られた舞台上で、みたいな。
だけどこの『キートン』は、おそらくその「アキラメ」感なしに読んでると思う。フツーに出来の良い長編を読むつもりで取り組んで、ソレなりのモノを返してくれる作品だと思うんだ。イヤ確かに短いページ数で最後締めるには、ある程度のパターンが必要だし実際キートンにもパターンはあるんだけど、「アキラメる」ほどじゃないってゆうか。「ストーリーのパターン化」はしょうがないにしても「人物のパターン化」がないってゆうか。
今手に入れるのは難しいかも知れないけど未読の方は(いるのか?)是非。
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『MASTERキートン』で、オレが一番好きな(感動する)エピソードはコレです。オリジナル判の3巻収録、「屋根の下の巴里」。
パリのとある社会人学校に講師の職を得られた主人公・キートン太一。マイペースだが勉学意欲のあるオジさんオバさんに囲まれ久しぶりに「水の合う職場」だと思っていたら、予算不足により近いうちに閉校・校舎引き渡しが決定してしまう。校舎には著名な壁画が残されており、政府が買い取って養老院となる予定なのだ。
日本から逢いにきた高校生の娘、百合子に、その社会人学校の行く末と勉学についての話をするキートン。そのうちに、キートン自身が考古学に人生を捧げたいと思うに至った、大学時代の恩師の思い出が蘇る。
大学時代、学生結婚した妻の妊娠で卒論に身の入らなかったキートン。恩師である大学教授はそんな彼の悩みを見越して教官専用の書庫の鍵を渡す。
「昼間働かなければならないのなら、夜勉強したまえ」
普段読めない名著、古今東西の文献を夜な夜な読み漁るキートン。
「今思うと、あれが人生最良の時だった。人間はどんな環境におかれても、学ぶ喜びは得られるんだ」
そんな恩師のニックネームは「鉄の睾丸」。その昔、極めつけのエピソードを持っていた。
1941年頃、毎週一度オックスフォードからロンドンの社会人大学に招かれていた教授は、そこで運悪くドイツ空軍のロンドン大空襲に逢ってしまう。大学はほぼ全焼、駆けつけた先生達は、学生達と一緒に救助活動に専念する。
しかし「鉄の睾丸」はスゴかった。可能な限りの人を助けた後に、煤で真っ黒に汚れた顔のままテキストを出し、学生達にこう言った。
「さぁ諸君、授業をはじめよう。あと15分はある。
敵の狙いは、この攻撃で英国民の向上心をくじくことだ。ここで私達が勉強を放棄したら、それこそヒトラーの思うツボだ。
今こそ学び、新たな文明を築くべきです。」
後にキートンも行き着いた「ドナウ=ヨーロッパ紀元説」を、追放を覚悟で発表した教授は、その後学校を去る。ユーリー・スコット教授、キートンの忘れられない恩師。
百合子「ユーリー?」
キートン「君の名前は、先生からいただいたんだよ」
***
現代。パリの社会人学校。キートンが受け持つ最後の授業。
「最後に皆さんに聞いていただきたいことがあります。それは…
たとえ学校がなくなっても、皆さんに学び続けて欲しいということです。
実は私も、学問を追究するものとして、自信を失いかけていました…。
しかしここで、皆さんと共に過ごすうちに、気がついたのです。
たとえ学校の職を失っても、勉強を続けていきたい!
学ぶ情熱がある限り…
人間はなぜ、学ばなければならないのでしょう。」
この時、校舎引き取りの下見に、大臣が壁画を見に訪れる。授業の終了を待たずに教室にズカズカ入り込む大臣達をキートンは一喝し、そして生徒達に話し続ける。
「人間は一生、学び続けるべきです。人間には好奇心、知る喜びがある。
肩書きや、出世して大臣になるために学ぶのではないのです…
では、なぜ
学び続けるのでしょう?
…それが人間の
使命だからです。
とりたててエキサイトなストーリーではありません。『キートン』の中ではひたすらに地味な方で、ひょっとしたら他の読者には全然印象に残っていないのかも知れません。だけどオレにとっては一番、印象深いストーリーなんです。
学校の勉強がなにより嫌いで、大学入学も2浪しながら勉強したのは最後の一ヶ月だけ、とゆう正真正銘の「勉強嫌い」であるオレなんだけど、このエピソードを読むたびに「ああ勉強ってイイな、勉強したいな」と思えるのです。もしくは「人間に生まれて良かったな」と思えるのです。ユーリー教授の伝説のくだりはいつもじぃんとキます。
一度他の読者に聞いてみたかった。「『MASTERキートン』の中で一番好きなストーリーはドレですか?」
もしその気になったお知り合いの方、ご自身のサイトに書いていただけると嬉しいなぁ。
では股。
はてなキーワード:MASTERキートン
イイよね〜「砂漠のカーリマン」だね。思ったより早い巻(2巻だっけか)に出てきてちょっとビックリしてた。「No.1はナニ?」を聞いた友人2人はどっちも「カーリマン」を挙げてたよ。
つかアニメ観たことある?どうなんだろ。
No.1はやっぱ砂漠にスーツかなぁ。
おお!仲間がいた!
他にも印象に残ってるエピソードはいっぱいあるけど、No.1はナニ?って訊かれたらやっぱりこの回ね、オレは。
いくつか歯抜けの巻があったんだけど、もう手にいれるのは困難(つか金かかる)だろーなぁ。昔はブックオフの100円で揃えられたのに。
イキオイで『パイナップルARMY』も読み返したくなってキタ!!
あ〜この回スキ〜
「大臣でも黙ってなさい!」とかの下りがスゲ〜記憶に残ってるかも。