10巻にもなってこのカンペキさ。今年ナンバーワンかって位の隙の無さ。フォントデザイナー、ファッション誌のマンガ特集、映画化、採り上げるエピソードすべて、上っ面をさらって「取材しました〜」的な落とし込みは1つもない。出てくる皆に血肉を感じて毎回泣いてしまう。
素晴らしい作品が出来上がる時、その裏側にあるさまざまな人達の並ならぬ努力と魂の様を見せてくれるのがこの『重版出来!』な訳だけど、まったく同じことがこの作品自体にも言える。巻末クレジットに出てくる関係者の名前すべてに、きっと同じような物語がある。数々の名作を送り出す小学館の担当編集山内さん、責任編集、デザイン、販売、宣伝、制作、スペシャルサンクス、すべての個人名の裏に、ドラマが見えてくる。このメタ効果。そもそもこの作品自体が最高に幸福な映像化を成し遂げたことを思うと、また二重の意味で感動する。
冒頭、自分の小説のためにオリジナルフォントを作って欲しいと要求する小説家のエピソードがあるんだけど、そもそもフォントって読者に「これいいね」なんて意識されるべきではないし(フォントデザイナーは誰一人としてそんなことは望んでいない筈)、ましてや小説の本文、そうそうオリジナルの意味なんて出せる訳ないでしょ…と内心思いつつ、読み進めたんだけど。
最後に完成したフォントでの本文組みを見て、「あ、これはひょっとしてアリかも」と思わされました。驚いた。勿論、実際に掲載されているフォントの「本物の力」があってこそだ。
映像の感想で良く書く「美術の説得力」と一緒。なんでも取材先の字游工房からフォントごとの掲載許可をもらったそうです。きっとこの掲載許可に至るまでも、マンガの中と同じドラマがあったんだろう。作者松田さんの見ていないところでの編集者の熱弁があったのかも知れないし、預かり知らぬ人が字游工房に対して松田さんのことを後押ししたのかも知れない。
仕事はおおよそ、そういうドラマで動いているんですよ。業界関わらず、誠実な人がちゃんといる場所であれば。この1冊に入っている話は、今もどこかでこのまま起こってても何の不思議もない。
取材がちゃんと自分ごとになっている作者の手腕の凄さ(そしてもちろん編集さんをはじめとする周りの皆さんの凄さ)。
「仕事をする」って「世の中をつくる」って、どうゆうことかをちゃんと形にして描き続けてくれている。大好きな作品です。
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