シネ・ウィンドで鑑賞。
上半期ギリギリで飛び込んできた大傑作。シネ・ウィンドさんが夜間上映やってくれたおかげで観れた!
人情コメディと報道ドキュメントとマッドマックス的アクションが一緒になったシリアスエンターテインメント。前評判がとにかく絶賛onlyだったけど、それも納得の出来です。個人的に韓国映画にたまに見る少し過剰なセリフ回しの演出がちょっと気になる位で、今年ベストに入るのは間違いなしの愛しい作品。
行く予定がある人は、できるだけネタバレを見ずに(これも読まずに)まっさらな状態で観ることをオススメしたい。何度も泣きました。出てくる俳優皆素晴らしい。ソン・ガンホは勿論、広州市タクシー運転手のユ・ヘジン、大学生のリュ・ジュンヨルらの笑顔ときたら。
ノンポリで政治などまったく興味なく、学生のデモにいつも文句言ってる、いわゆる「小市民」の代表・タクシー運転手ソン・ガンホが、目の前にいきなり展開するどうしようもない現実を前にして変わっていく様に、自分に何が出来るのかを葛藤し行動していくその芯の強さに、熱くなる。
ドイツ人ジャーナリストをなんとか無事に脱出させようと手を尽くす光州市民にも泣かされるけど、大事なのは「多分この人たちは、デモがなくても、普段から困っている人がいれば助け、おかしいと思うことがあれば自然に声を上げているんだろうな」と思える描写で、そこが自分的には1番のポイントだったように思う。顧みて自分はどうなんだろう。
決して他人事でない、このような状況になったら自分はどう動くのだろう。娘のために、将来のために、何ができるんだろう。考えさせられた2時間弱。間違いなくこの主人公達のようには動けない。平気で多数に従い人を殺す側になると思う。「小市民」?よく言えたもんだ。
それが分かっているから、そういう未来にならないよう、せめて少しでも手を尽くす。目を疑うような政府や軍の弾圧も、まさに俺のような人間が沢山いるから実現される。端からは狂ってるように見えても、その中にいる「俺」にとっては何の不思議もない当たり前の世界。一旦そうなったらもうひっくり返せない。
さて自分は映画を観ただけではどうしても理解し切れないところもいくつかあって、それらはパンフレットや町山智浩さんのたまむすび解説などを聴くと分かります。
1番気になったのは「軍が何故ここまで非情になれたか」。一つには光州市のある全羅道(チョルラド)への全国的な地域差別感情。もう一つは、当時の北朝鮮が学生の民主化デモを操っているといたという認識、なんだとか。当初は「北朝鮮の手先である全羅道の非国民アカ学生をつぶせ!」だったのが、軍の対応を見て味方になったノンポリの市民達もすべてまとめて同じ対象になってしまい、ここまでの惨劇になってしまったと。(町山さんのラジオ要約)
パンフの全体的な出来はあまり良くないけど(特に翻訳が気に入らない)知識面のサポートがなるほどなので買っておくと良いかも。
シネ・ウィンドでの上映も半分を超えたと思います。この機会は見逃さない方がいい。劇場で、この空気と気持ちを共有しながら観るのが、意味のあることのように思えました。半分以上笑いながら観れる楽しい作品ですからね!(でもそこはかとなく漂う不穏な空気は最初から感じていて、これはストーリーを知っていたからなのかどうなのか、知りたい)
あ、あと主人公のタクシーがめっちゃカワイイ!カリオストロの城に出てくるパトカーとか、あんな感じ。ちょうど同じ頃の作品だからね…。あの緑色も理想のマッチングを目指して何度も何度も塗り直し試行錯誤したらしい(パンフレットより)。高速道路を通る多数の車もみんな当時のもの。すげえなぁ…さすが韓国。
映画を観て思うことがあり光州に行ったというウィンドの井上支配人。劇場には市の地図が貼ってあり、チャンスがあれば支配人の現地解説が聞ける。「今の」光州市の話や、主人公の2人のその後の話、特に映画にもパンフにも出てこないタクシー運転手のその後の話に…(;。;)