カテゴリー: 本・雑誌

『柳政利さんのいた新潟』

img_1387
柳政利さんは2014年末に亡くなられたデザイナー。70年代から今に至るまで、新潟の草の根的な演劇・映画・音楽シーンを影から見守りデザインでサポートしてきた方。という知識だけで自分は面識がない。
その存在を意識するようになったのは、亡くなってからその界隈で困った困った…という声をあちこちから聞くようになったからだ。ほんの一部だけど彼の仕事を引き継いだケースもある。

噂でしか知らなかった柳さんの生き様を知ることができた貴重な冊子。新潟の「界隈」の方々が「勢揃い」といっても良い位、錚々たるメンバーで柳さんの在りし日を語る対談が半分、あと半分は柳さんが反画工房の名前で発行されていたフリーペーパー「サブ」の再録。

彼の無骨だけど必ずその場に「居て」時には写真を撮り見守っていた様子が色んな方の口から語られている。このような面識もない自分が柳さんの足跡を見ることができること自体すごいことで、書き起こしもフリーペーパーの収集も、大変なお手間の中実現されたスタッフの皆さんには本当に頭が下がるし感謝したい。お疲れさまでした。ありがとうございます。新潟すごい。

※これは一般売りしている書籍ではなく、元々制作費を寄付していただいた方に配布し、残部が出たので、その分だけ(寄付していただいた方に)譲る、というシステムのようです。私は新潟絵屋で入手しました。

ミシマ社『ちゃぶ台 vol.2』

img_0939
ミシマ社初めての雑誌『ちゃぶ台』の2号。今まさに読みたい「農」の事情が満載です。「最初から最後まで読みたくなる雑誌を」との目標通りにすべて順番通り読んでしまった。概して自分のような問題意識を持っている人間には「うんうんそうそう!」と賛同できる心地良い意見が並ぶんだけど、その反面「雑」誌っぽさには欠けるとも思った。少し違う意見を差し込むと、もともとの本題が更に生きてきたり記憶に残るのかも?どうなんだろう。

一箱古本市発の雑誌『ヒトハコ』創刊

img_0808

先週届いた一箱古本市発信の新雑誌『ヒトハコ』読了。
前半は「一箱古本市」という、今やすっかり定着した、新しい憩いの場を作り出す喜びやワクワクが詰まっている。といってその楽しいふわふわだけじゃなく、後半では熊本の震災と本屋さんとのレポートだったり、Book!Book!Sendaiが昨年で終了するに至った経緯を、同年高松でブックイベントを始めた方との書簡であらわにしたり、とシビアで読み応えある記事もあって。
すごくバランス良く、しかも「雑」誌感もあって、期待以上の好き好き雑誌になっている!

石井ゆかりさんの、一箱古本市についての鋭い視点。おざわようこさんの驚異的な密度・完成度の「ブックバレーうおぬま」イラストMAP!火星の庭・前野さんの社会に対する想いと努力。東北で移動図書館を走らせる国際NGOの女性と南陀楼綾繁さんの対談から見える「震災」と「本」。お恥ずかしながらこれを読んで初めて「そうか、プライベートが確保できない時に、本を読むことでその代替になり得るんだ」ということをやっと想像できた次第。でもその合間を埋める細かいコラムや小記事も楽しくて…。

長く続けることが苦手な自分は、この企画が上がった時に(企画者の)南陀楼綾繁さんに「なんで単発じゃなく『雑誌』なんですか?」と聞いたことがある。その答えはちゃんと覚えていない。でも、そもそも雑誌がやりかたったので何いまさらその質問、的なかんじだった気がする。完成品を読んで納得しました。今や毎週末日本のどこかで開催されている本読み達の新しい憩いの場、「一箱古本市」。これだけ沢山1年中続いているイベントなんだから、いくらだってネタはあるし、専門の雑誌があったっておかしくないよね全然。なんか普通に思えてきましたよ。新潟では北書店や今週末のアカミチフルホンイチで買えます。お勧め!

昔の『kate paper』

img_0788
本棚の整理をしていたら見つかった2009年の『kate paper vol.3』。
冒頭は桑原茂一と石橋毅史のロングインタビュー。

めっちゃ読み応えあるし、今読むとなお、示唆に富んでいる。石橋氏は新潟に来るようになる前の頃かな。『新文化』編集長の頃だけど、しかし何時でも辞めそうな気配マンマンなインタビュー。フリーペーパーなんだけど何処で入手したか全く覚えていない。他の号も欲しい。

今の日本で、1週間後に徴兵されて「朝鮮に戦争しに行ってもらいますから。人を殺しに行ってもらいますから」となれば、もしかしたら、はたと気がついて「自由なメディアが欲しい」とフリーペーパーを作る人がいるかも知れない。だから清くとればまずは反抗ですよ。必要に迫られてというか、背に腹はかえられないというか、やまれぬ気持ちでdictionaryを始めたんです。」
kate paper vol.3 2009 桑原茂一インタビューより

ピーター・バラカン『ラジオのこちら側で』

img_0812
風邪で会社を休んだ一日に、ゆっくりと堪能した。
バラカン氏が来日した1974年から現在までを語り下ろしでまとめたもの。ラジオは勿論日本の洋楽音楽業界の歴史書籍としても面白い。ラジオメディアの技術的な進化についても、そのうち否応なく語らざるを得なくなった時々の社会問題との関係も、日本独特の事情と合わせ淡々と語られている。

10年ごとに「その10年を代表する10曲」が彼のセレクトと文章で紹介されているんだけど、今はAppleMusicやYouTubeでその場で聴きながら読めるという、とんでもない良環境にある訳で。色々と困ったことの多い日本の音楽・ラジオ業界だけど、これだけは素直に喜ぼう。藤島晃一、マリのトゥマニ・ジャバテやRokia Traoréなんかはすぐリスト入りした。幼稚園から帰った次女がメイシオ・パーカーのLiveを延々と見続けている姿が妙に嬉しかった。

今は確かに欲しいものはすぐその場で手に入る環境は揃っているけど

そもそもどんなものがあるのかを知らなければ探し出すこともできない。何を観ればいいのか、聴けばよいのか、その手がかりになる名画座のような存在。そういうメディアが必要です(同書)

だけど読んで思った。今の時代であれば(これらのオンラインメディアを使い)書籍で、充分名画座メディアは作れるんだ。この本はまさにそうだった。本だけどラジオのようなものだ。

書籍とAppleMusicやYouTubeを繋ぐもう少しの工夫さえあれば、紙媒体の位置づけも更に変われるんじゃないか。そんなことをうつらうつらと考えていたら、まさかの人間がアメリカの大統領になった。

『君の名は。Another Side:Earthbound』加納新太

img_9374

映画本編とほぼ同じタイムライン上で、脇の登場人物の目線を借り、語られなかったストーリーを掘り下げて本編を補完する小説。面白かった!

映画と同じで前半はコメディタッチ。三葉に移った瀧と友人2人などを通して、入れ替わり劇を本人と周りがどのように受け入れていったかが分かる。途中、妹の四葉目線になったあたりから急展開。本編では何となくだった宮水の巫女の歴史についてぐっと深く掘り下げ、四葉のとある体験が語られる。これがまた泣ける。FSSでいうとトコの「代々の記憶を受け継ぐアトールの巫女」ですよ。あの感動(分かる人だけ分かって)。

そして本題は、何とお父さんが主役です。死んでしまったお母さん二葉、彼女との出会いから別れまでの話。この物語が本編の足りなかったピースをぱちぱちと埋めていく。彼がどうして宮水に婿入りしたのか。二葉がどんな人で、糸守町にとってどんな存在だったか。死後町長になるまでの話。そして映画のクライマックス、語られなかったあのシーン。どうして彼は三葉の話を呑んで住民を避難させたのか…。

映画には殆ど出てこない二葉という女性が、実はこの物語の根底にすべて深く深く関わっていることが、良く分かる。改めてぐっときたー!▼友達の三上氏以外のラノベ、初めて買ったかも知れない。軽い表紙の印象とは違い、特に後半の重厚さにも大満足の一冊でした。

読書録もろもろ

今一番楽しみに読んでいる雑誌(どうしてもWEBで読む習慣が身に付かず紙版が初読)『みんなのミシマガジン』(サポーターのみの購読誌) 冒頭が紙特集なのに印刷本紙が届かなかったというお手紙にまず笑わせられ/『恋人たち』監督・橋口亮輔さんのインタビューに身を正す思いに/矢萩多門さんのインド話でじぃんとして/『ちゃぶ台』2号のテーマは「食×会社」!面白そう!/ジュンコさんが以前から描いているベルツに涎/立花隆さんの一言に唸り/三砂ちづるさんの白い虫の話にさもありなんと思い/ミシマ社サポーター、此れが読めるってだけでオススメですよ。 #readinglist_dsm

@ashinami96が投稿した写真 –

インスタの読書録テスト

後でやめるかもだけど、とりあえずテスト。

ミシマ社『みんなのミシマガジン2016.2月号』 モンド君の表紙がキョーレツにイイ! 必ず買おうとは思っていた鹿子裕文『へろへろ』だけど、この特集でもう待ちきれなくなってしまった。ちょろっと挟まれる鹿子氏の『宝島』時代の話も凄い。 山口ミル子「5年後、」が一段落。単行本買い/佐藤ジュンコさんの描いてる「どんこ(エゾアイナメ)」美味しそうだな〜!いつか必ず食べる!/近藤雄生「自分にとって切実なテーマ」の正体/平尾剛さんが神奈川県の高校で講演した内容が載っているんだけどこれがマジ実用的。中高生でスポーツしている人にはすべからく伝えたい。スポーツ界でこんな風に真摯に「言葉」を持つことができる人と(自分が)出会うことは珍しくて、それだけでミシマガジン、ありがたい。 #readinglist_dsm

@ashinami96が投稿した写真 –

TV東京『ノーコン・キッド』を観て、80年代アーケードゲーム熱がぼうぼうと再燃中。▼小学校最後から中学時代、ゲーセンに入り浸っていた。あ の暗くてうるさい「ゲーセン」が大好きだった。新風営法施行前の夜中の雰囲気とか、俺にとってのユートピアだった。▼大学に入った頃ゲーセンでバイトをしていたけど、見知らぬ他人のゲームにいきなり乱入して、そのまま何の挨拶もせずに帰っていく「格ゲー」ブームが始まり、「あ、これはもう俺には合わない」と思ったのがゲーセンとのお別れ。あれ以降の「ゲーセン」は、俺にとってまったく違うものに変わった。▼番組の公式本に「最初はとある原作本をドラマ化する予定だったのに諸事情でできなかった」とあるのを読んで、すぐに思い出したのが田尻智『パックランドでつかま えて』。まだとってあった!そういえば田尻氏は同ドラマにも本にも出てこない。▼『ノーコン・キッド』はツッコミどころも満載のまぁそれなりなドラマだったけど、あれだけのプレイ画面をちゃんと見せてくれただけでも涙もの。書籍は各話ごとにストーリー解説2P、監督の解説2P、登場ゲーム& 当時のゲーム解説2P、歴史解説1Pが付くとんでもないボリュームで、大満足。これはただの番組ガイドの範疇を超えている。▼あの頃のゲーセンを (エアコンのタバコの匂いまで)再現するのが、ここ10年来の夢だったけど、もうそろそろ、実現のリミットが切れる頃だ。基盤が眠りにつきはじめる。 ▼『TVドラマ「ノーコン・キッド」から見るゲーム30年史』『20世紀 特集:ゲームと、夢のアーケード』田尻智『パックランドでつかまえて』 #readinglist_dsm

@ashinami96が投稿した写真 –

その装丁が、あまりにも美しい。 #readinglist_dsm

@ashinami96が投稿した写真 –

風呂

高山なおみさんの『帰ってきた日々ごはん(1)』を読みながら1時間ほどだらだらとお風呂に入る夜中。寒くなったら「お風呂は2日に1回」がポリシーだし、どっちかといえばお風呂は嫌いな方だけど、本を読みながらダラダラ入っている時は「お風呂サイコー!」って思っちゃうよな。

Instagramで読書録を付けられないかをしばらく前から考えていて、今実験中。ブログに書くことが前提なのでそのうちアップします。インスタでは皆文章を読む気があまりないみたい。自分もそうだな。だから「見られるインスタ」から「使えるインスタ(自分にとって)」へと少しシフトする感じ。上手くいけば、だけどね。Facebookは全然シフトできなくて、離れちゃったから。

  

MANNER MAKETH MAN

アーサー・ランサムの『ツバメ号シリーズ』に関して自分が書いた感想を読んでいた。そして気付いた。

このシリーズの子供たちの振る舞いこそ、
『キングスマン』の名セリフ、「MANNER MAKETH MAN(マナーが人をつくる)」を、そのまま体現してる。
イギリスものが好きな人の気持ちが、なんとなく分かった気がする。

Kingsman gentleman's Guide

  

S・キング『11/22/63』

分厚い上巻がもう終わる頃、500ページを超えたあたりで、本格的にのめり込みはじめた。主人公が運命の女性と出会い、「自分の時代」へ二度と帰らないことを決心したのと、ちょうど同じ頃。

空が白み始めた夜明け時の布団の中で、自分は1961年のアメリカ、小さなジョーディの町に住んでいた。こんな体験は久しぶり。あの小さくて四角い麻薬のような箱(60年代には存在していなかった)悪魔の箱から逃れがたい2016年では、こういう日が、こういう瞬間がとてつもなく愛おしく感じるものだ。

『火星の人』

アンディ・ウィアー『火星の人(ハヤカワ文庫SF)』読了。
他のすべての予定をなげうってでも、ひたすら読みふけりたいと思わせる、久しぶりの読書体験だった。大傑作!!サイコー!!

このレビューを書いている今日現在、アメリカのAmazon.comでは原作本『The Martian』に5000人超がレビューをし、そのうち3650人が5つ星の評価をしているSF長編です。
Amazonレビューより

日本では2016年2月に劇場公開される映画『オデッセイ(邦題)』の原作小説。
トラブルに見舞われ中止&途中帰還となった有人火星探査ミッション。脱出時に死亡したと思われ、火星に只一人取り残された植物学者でエンジニアのワトニー。彼がなんとか地球に帰還しようとしてあがく、底辺サバイバル生活を描く。

どうしたって暗く息が詰まるような状況の連続なんだけど、主人公の常にユーモアを忘れないモノローグのおかげで、最後まで楽しく読めるという不思議な小説。

以下多少ネタバレあります。
続きを読む

1%の強欲資本主義にとって邪魔なもの。と本の大切さ

『沈みゆく大国アメリカ』『沈みゆく大国アメリカ<逃げ切れ!日本の医療>』の著書を通じて「命の沙汰も金次第」になっている「資本主義国」アメリカの現状を暴き、日本の医療の市場経済化自由化に警鐘を鳴らすジャーナリストの堤未果さんのインタビューより。

市民の関心の大切さ、特に平時において自分たちが今持っているものや制度について「守られるが当たり前でしょ」という無関心が、やがては取り返しのつかない事態に繋がってしまうことや、日本とアメリカのそれぞれの良さ(おたがいさまの精神と、1人でも躊躇無く立ち上がる力強さ)などを語ったあとに。

先々週に書店員さんを対象に講演したときにも聞いたんですが、1%の強欲資本主義が、あらゆるものを「商品」にして最も効率良く儲けを出す為に、一番邪魔なものって何だと思いますか?
—–うーん……。
「想像力」です。想像力があって自分の頭で考える市民より、情報を鵜呑みにする消費者のほうがものを売りやすいんです。本は映像と違って主体的になれる媒体です。想像力を奪わないどころか、むしろ想像力を深く大きくしてくれます。アメリカと比べると、日本にはまだ活字文化が生きていて、本を読む人がたくさんいることに私は大きな希望を感じますね。

『みんなのミシマガジン(紙のミシマガジン)2015.7月号』より

『ツバメ号とアマゾン号』シリーズ

『ツバメ号とアマゾン号』は、私にとっては、命を終えるその日まで心の底で輝きつづける永遠の夏の光だ。

上橋奈穂子(作家/文化人類学教授)

岩波少年文庫で復刊された『ツバメ号とアマゾン号』シリーズ、通称「ランサム・サーガ」を全巻揃えて読み始めています。元の分厚い単行本では全12巻だったけど、文庫だとその倍の24冊。

記憶があまり定かじゃないのだけど、小学校の2〜4年生くらいのどこかで肺炎にかかり、2〜3週間学校を休まなきゃいけなくなって、その時に母が図書館から借りてきたのがこのシリーズでした。当時の自分はもう夢中になって読み続けて、最後の12巻を読むときは、もう終わってしまうのが本当に悲しくてさめざめと泣いていたことを今でもハッキリと覚えています。

これが、今読んでも驚くほどに面白い。というか普通に夢中になってしまっている、なう。
舞台は今から100年近く前のイングランド湖沼地方。夏休みを過ごしに来たウォーカー兄弟と現地のナンシー姉妹の交流から物語は始まる。子供達(おそらく殆ど小学生か、一番上で中学生くらい)は、自分たちだけで無人島にキャンプを張り、食事を毎日作り、気の向くままに冒険を続ける。移動は小さな帆船ツバメ号とアマゾン号。というと、なんだか子供の理想の世界のあまーいお話にも聞こえそうだけど、違う。彼ら彼女たちの操船、キャンプ設営、食事の作り方、火のおこし方に至るまで丁寧に描写され、そのスキルの高さがイヤでも分かるようになっている。そのあたりの描写は、徹底してリアル。そして特筆すべきは彼らの「マナー」と気持ちのまっすぐさ、真面目さ。通底する彼ら子供達の気持ち良さが、ランサム・サーガの大きな魅力ではないかと思う。

その基本があった上での、「理想の休暇」が物語り中では延々と続く。読む自分も一緒になってイングランドを冒険している。この気持ち。何と言ったらいいんだろう。初読時に12巻を迎え泣いた気持ちが、今でも良く分かる。だけど一度最後が分かってしまえばもう大丈夫。また一巻から読み直せばいいんだから!永遠に繰り返せばいいんだから!←オトナのスキル

古さがないといえば嘘になる。だけど古さが一つもマイナスに感じられない物語。理想の時代の、理想の夏休み。本当に大好きな物語。

是非こちらの感想文もどうぞ。ちなみに作者のアーサー・ランサムのファンクラブが世界で最初にできたのが日本だそうですよ。(→アーサー・ランサム・クラブ
愛しの本たち:ツバメ号シリーズ/アーサー・ランサム

週末はこの本を読みながら、娘達に遊びをせがまれて、読書が中断されて、でもそれはそれでどちらも本当に嬉しくて、こういう状態がたとえようもなく幸せだなぁと思います。

 

エグザイルだ

出た当初から思いっきり笑わせてくれて、しかもその後時が経つにつれてどんどんその立ち位置のオモシロ度が上昇しているあのEXILEさん達だが※、そのオモシロについて嗚呼誰かと語りたい語りたいと思っていたのだけど、このたびまさしく溜飲の下がる文章を見つけた。あの西炯子さんのエッセイだ。BOYS LOVEから出発した私の好きな漫画家さんだ。この人エッセイも書く。しかもすごぶる面白い。分かりやすくいうと消しゴムのないナンシー関さん、というカンジか。(そのワーカホリックぶり・引きこもりっぷりも似てるようだ)
※この間テレビのある妻の実家でうっかり「エグザイルがMCのバラエティー」というのを観てしまった。その主語、まず変。空気は言わずもがな変。出オチかってゆう位に、その何人もMCがいる風景がもう、笑えて笑えてしょうがない。

以下引用するのでみんな気持ちよくなれ。

 ああ、EXILEは面白いなぁ。
 いい歳をした男が大人数で踊っているというだけでも面白いわけだが、その面白を本人達が「面白」と評価していないことにより、カッコよかんべと思ってやることが残念ながら雪だるま式に「面白」に転がっているということがEXILEの味だ。私がEXILEを見たのはただ一度。数年前のレコード大賞。たまたまテレビをつけたら出てきた。「EXILEのみなさんです!」と紹介されて舞台袖から登場。と思ったら、なんだこの人数!何年何組だ!いつまでもいつまでもぞろぞろ。会場からそろそろ笑いが起こるのではないかと思っていたらそういう気配は無し。そしてぞろぞろと司会者の辺りにたまってた。で、この有象無象は何をするんだねと思ったら、ほとんどがバックで踊ってるんでやんの。しかもガチでかっこいいでやんの。もう爆笑。気持ちよく笑い納めをして仕事に戻った。それ以来、EXILEが気になって気になって。
で、いわゆる「ビッグ」にステップアップするごとに面白が増してゆく日々だ。ああ、どうしよう。
(後略・太字引用者)

この西炯子二冊目(多分)のエッセイ集だが、激オススメ。前半はなんと書き下ろしである(つまり昨年〜今年に書かれた)。震災後の世の中についても西の鋭い突っ込みが冴えていて、上記の他にも引用したい所だらけだ。あと書名の印象と内容は随分違う。別にオタク系の話題が多い訳ではない。読んで欲しい。今年のこの手の本では
これと双璧をなすオススメ本。西原さんの方は是非高校の副読本にしてほしいと思う。

  

エヴァQ:カラーの出自・from『熱風』

np-1212

スタジオジブリ『熱風』2012/12号の特集は『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』。映画の内容には殆ど触れていないが、スタジオカラー、その元となった事務所カラー、を庵野さんと二人で立ち上げた轟木一騎さんの文章が興味深い。結構成り行きまかせ的だったんだね。あと冒頭の氷川さんの文章は、エヴァの制作環境・配給・宣伝を一手に自分で手がけるその姿勢を解説したものなのだけど、そのあまりのアニメ愛に最後は何だか泣けてきた。

送り手から受け手へとつながっていく感動と価値観の連鎖。その幸福感のストリームの上に、たまたま指標としての「金銭」が乗って流れる仕掛けが、運良く三十五年前にできた。(だが)筆者はいつでもその前の(何も流れの無かった)荒野に戻り、戦いを始め直す覚悟がある。「アニメが好きだ」という確かな情熱がその原動力と確認したから、怖いものはない。

※カッコ内太字は引用者の追記:スタジオジブリ『熱風』vo.120

大成功している今回の新劇場版などは特にその宣伝手法・金銭面の話題がピックアップされそうで、氷川なりの解説を入れた形なのだろう。分かる。あの時代のガイナックスの話を聞いている層にはきっとぐっとくる内容だと思う。

さらに同誌で驚愕的なのは、同映画のプロデューサー大月俊倫氏による文章。曰く、今回の企画では最初にエヴァに関しての長いインタビューをジブリから受け、のべ500字もの「大変に面白かった(編集部)」原稿に一旦仕上がったのだが、その内容は大月氏にとって、「自分の話し方のせいで自身の現実と違う部分が散見した。」ので、「自身の執筆原稿に変更させていただいた」のだそう。

その結果書かれたのは、エヴァの名前は一回も出てこない、日常エッセイ。そのエッセイの中で彼は「駅でホームレスの人が売っている雑誌(名前は出ないが明らかに『BIG ISSUE』誌)を買う勇気が持てなかった自分が、あるきっかけで初めて買うことができ、その時の売り子のホームレスの中年男性の笑顔を見て、何かが大きく変わったのだという。あるいはDVDで見た比叡山の「千日回峰行」のすごさに、フルマラソンを走って自慢げにしていた自分のあさはかさを嘆く。そのような内容のエッセイ。
文章は「私は50年生きてきても何も変わらず中身がない、日々生き恥をさらしている」ではじまり、
「私はやり直すことに決めた。」で締められる。

これがエヴァとどう繋がるのか。読みようによってはいくらでもこじつけられそうだけれど、まったく分からないというのが正直な感想(というかそんな詮索している暇はない)。掲載判断をした編集部もキツかったことだろうよ。

「エヴァンゲリヲン」は100人の受け手がいれば、100通りの解釈があるような不思議な作品です。その不思議な作品を作ったプロデューサーの不思議な原稿ということで、編集部ではそのまま掲載することとしました。

同誌「編集部より」

こじつけと思えばこじつけだけど、たしかにエヴァらしいとも言えるのかな。そういう感想が『エヴァQ』本体を見ての感想にもそのまま当てはまっちゃうのが何とも気持ち悪い。そうそう、エヴァQは劇場で鑑賞済みです。機会があればまた感想を。

  

旅する本

先日書いた『紙葉の家』について、もらわれていった先の古書店店主から、「また古本市で流そうと思うんです。そうやってどんどん渡り渡っていくのって、あの本らしいじゃないですか」「それ!いいですね〜。で、いつかひょっこりおれの本棚に戻ってたらいいなぁ。」なんて話していました。
この本はメタフィクションの中に更に何十にも入れ子状にメタフィクションが絡まりあっていて、だんだん本自体の存在まで不思議に思えてくるようになってます。希有な体験でした。なんだか意味分かんね〜でしょうけど、古本市を流れ流され…というのはまさにこの本にぴったりの物語。そのうちに中身が少しずつ変わっていってもおかしくないような、要するにそんな物語なんです。旅しておいで〜。買って良かったよ〜。

ABOUT

1999年のWEB日記時代から始めた個人サイト。ブログ移行にあたって過去記事も抜粋してアーカイブしています。
(HTMLサイト→SereneBachブログ→WORDPRESSブログと転移)

好きな漫画(2014年版)はこの記事の最後に。

最近は(インスタ)でアップしているTV・映画感想の投稿を、半年に1回くらい一気に転載しています。