カテゴリー: マンガ感想

小指『偶偶放浪記』

小指『偶偶(たまたま)放浪記』(白水社)読み途中。


矢萩多聞さんの「本とこラジオ」に作者の方が出ていたのがきっかけ。

めっちゃめちゃ好き!!!!
漫画7割、エッセイ3割くらい(感覚)の旅行記。と言っても観光地的な行き先はどこにもなく、ふとしたきっかけ(寝過ごしとか笑)で訪れた、なんていうことの無い町が多い。

現実なのかどうか分からない位にファンタジックで、歴史の落とし穴に入ったようなまちを探検するレポート。すべての店が閉店しているかに見えるいにしえのアーケード街、その中でちゃんと営業していた、素敵な佇まい、素敵な看板の喫茶店。しかもとっても美味しい。趣を同じくする人なら1度はこういう経験をしたことがある筈。そんな話があったり、あまりの寂しさにせつなくなって帰ってきたり。

古い商店街や、地方の素敵な佇まいの看板に心躍り、でもやっぱりとうの昔に閉店したりしてる時の、あの身勝手なガッカリ感。でもそんな中で、たまに夢のように「まだやってるんだ!」てお店があった時の、あの高揚感。所詮よそ者が1回だけ…ていう罪悪感。いろいろ入り交じった気持ち。楽しいだけじゃなく切ないも含めて、1冊に詰まってる。

古モノ好きの自分にとって隅から隅まで好みドンピシャだし、小指さんが「行きたくなる・入りたくなる気持ち」がすごく自分と共通しているから気持ちいい。なんかこういう場所を見たり体験したりして残りの人生を過ごしたいとか夢見ちゃう。

書かれてる場所にはすべて行ってみたくなるね…(もう既になくなっている場所も結構あるけど)。
書籍は1800円と高価ですがボリューム・内容ともに後悔させない充実感。

panpanyaが好きな人は、あれの実話版を想像してもらいたい。
それ位夢と現実の境界線がゆらぎます。ぞくぞく楽しい一冊。

『総特集 佐藤史生 〜少女マンガが夢見た未来』

『総特集 佐藤史生 〜少女マンガが夢見た未来』(河出書房新社)

2010年に59歳で亡くなったSF漫画家・佐藤史生。
著作も少ないのでほぼ全部持っている。唯一無二の世界観。大好き。

坂田靖子、萩尾望都、木原敏江らの語る、描く佐藤史生。あの大泉サロン時代の話もいろいろ(これ書く人によって色々見方違ってて、最近のドラマの流行りみたいで面白い。ドラマ化して欲しいけど、難しいだろうなぁ)。

さらに本人の手書きの手紙やインタビューなど、とんでもなく!充実した内容。

これ一体いつの刊行?と思いきや、2024年6月初版なのです。確かそのきっかけが中のどこかに書かれていた筈。

今になってこういう本が出るのは本当に嬉しいし、素晴らしい仕事に心から感謝です。
関係者の皆さま、ありがとうございました!!

泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』感想

NHK『あたらしいテレビ』で吉田恵里香さんが推していた、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』(アフタヌーンコミックス)既刊分読了。

【あらすじ】
勉強もバイトも何故かうまくいかない、どこか生きづらさを抱えているヤンキーの小林。そこに変わりモノで生真面目な転校生・宇野が現れる。彼も様々に生きづらさを抱えているが、メモ帳に対処法を書いて持ち歩いていた。彼のメソッドの凄さに気付き尊敬していく小林。2人は次第に仲良くなり、一緒に天文部へ入部することになる。

【感想】
すごく好き。この気持ち良さは『ヤンキー君と白杖ガール』に似ている。「誠実なヤンキーの魅力」か。いや、相手役となる転校生・宇野と白杖ガール・赤座ユキコとの共通点もあるような。この組合せ、今後もいけるんじゃね?

とかそんな簡単なもんじゃなくて、両作品に共通しているのは徹底した当事者目線と取材の深さ、エピソードへの落とし込みの巧さ。「ちょっとこれ、おかしくない?」て所がない。ひっかかりがないんだよね。あと本当にイヤな人が出てこない。

ちなみに主役の2人、明らかに発達障害の傾向がある。ADHDやひょっとしたらLDも。ではなぜこういった名称が出てこないかと言うと、これも直接の明言ではないけど「舞台が平成だから」と作者が1巻あとがきにやんわりと書いていた。あの頃、世の中で「発達障害」とその詳細がどれだけ認知されてたかということだと思う。なるほど。

確かにこの10年で認知度は大きく変わったし、書籍やエンタメも多く世に出て来た。おかげで我が家もすごく助かった部分がある。
このマンガで救われる人もきっと多いだろう。

「このマンガがすごい!オトコ編1位」他いくつも賞をとっているのも嬉しい。多分もうドラマ化なんかも動いているんだろうけど、頼むよ…
色恋沙汰とか変なアレンジしないでね。ちゃんと、お願いしますよ。

『ヤンキー君と白杖ガール』のドラマ化は本当に、本当に素晴らしかった!主演は去年のドラマ女王だった杉咲花。

ちなみに『ヤンキー君…』のドラマが放映された2021年を過去記事で振り返ると…すごいなぁ。
大豆田とわ子、コントがはじまる、おかえりモネ、ヤンキー君(杉咲)、今ここにある危機とぼくの高感度、おちょやん(杉咲)、秘密の森…
当時もそう思ってたけど、あとから見ても改めて、とんでもない年だったんだ。

さて2025年、どんな年になるでしょうか。


我が家の漫画コーナー

『映像研には手を出すな!』9巻。すごい。

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』最新9巻。

なんつの。このネタで、このパワーダウンの無さ。いやー楽しい。最高です。

映像研の1巻が出た時は本当に衝撃で、「これだけ自分達(60〜70年代生)の好みを知り尽くしているのだから間違いなく同年代、若くても40年代だろう。なんて遅咲き。でもめっちゃウェルカム。出てきてくれてありがとう!!(編集さんありがとう!)」というような感想を書いていたことを思い出す。

大童澄瞳さんが90年代生まれだって聞いた時はまず信じなかったし、なんか間違って検索しちゃったんだろうなって思った位だもの。嘘でしょって。この若さでこの内容?
まじかよ…。てなったんだよね。

あれからもう7年くらいか。まさかアニメ制作の現代を憂うこの作品がアニメになったり実写になったりするなんて想像しようもなかった。
そんなこと関係なく原作が面白つづけるのが最高です。生きてく糧のひとつ。

映画『ブルーピリオド』は「こうなっちゃったらOUT」の道を一つも踏み外さなかった傑作

『ブルーピリオド』実写映画版をAmazonレンタルで。
監督は萩原健太郎(『サヨナラまでの30分』)
原作は連載開始当時からのファン。

【あらすじ】
高校生の矢口八虎は成績優秀で周囲からの人望も厚いが、空気を読んで生きる毎日に物足りなさを感じていた。苦手な美術の授業で「私の好きな風景」という課題を出された彼は、悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみる。絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を抱くようになり、またたく間にのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するが……。(映画.com)

【感想】
大傑作の実写化だと思います。
原作は大好きだけど、その魅力を実写化によって更に引き出していると思う。同じ座組で続編を作ってほしい。
ほとんどケチのつけようがない位。
原作好きで躊躇しているところあったけど、原作未読の @9falcon9 が良かったと言ってたおかげで、遅まきながら観ることができた。ありがとう〜!

キャストの素晴らしさ

眞栄田郷敦を使ったのがまず大勝利。正解のない、自分自身の中に奥深く潜りこむことだけで腕を磨いていく世界。その深みを、暗部を、彼の目つきや身体の動きからしみじみと感じる。すごい説得力。(メインキャストは相当絵の特訓したらしいし、エキストラは皆美大生か予備校生)ちゃんと「暗い」映画になってる。

最近あまりにひっぱりだこでやや「またか…」感のある薬師丸ひろ子。本作では冒頭からその説得力で泣かせる。一瞬で美大受験の世界に入り込めたのは、彼女の力がでかい。

主人公が絵画にのめりこむきっかけになる森先輩(桜田ひより)さんの、間のかんじ。あーこういう人いそう。見事。

一番実写化が難しいと思ってて(実写化を怪しんでいた要因でもある)主人公の幼馴染みで女装の男子、ユカちゃん(高橋文哉)も見事にハマってた。これは、連載当時から時間が経って、高校で女装の男子という存在に、当時ほど違和感がなくなったこともあるかもね。そういう感覚の移り変わりって早い。よくもまぁこんな演技ができたもんだ。
世田介くん(板垣李光人)も原作そのまんま。

新潟地元パイセンのあの有名な美術家さんも先生役で一瞬出ます笑

「本物」を使う凄み

原作マンガでは、実際に美大生や生徒や作家が描いた絵画を作中人物の作品として使っていて、だから説得力があったのだけど、これが実写化になって更に凄みを増しているのが凄い。こうゆう「作中作品」のリアリティってめちゃくちゃ大事で、ここで「薄目で観ないと耐えられん!」て作品は山ほどある訳で。
(原作ファンだと「あの絵じゃん…泣」ってなるよ。同じ作家にもう一度描いてもらったそうです)

石膏デッサンが並んで実力の違いが分かるところなんかも凄いし、武蔵美や藝大その他がおかしな変名を使わずにすべてそのまま描かれているのって、入り込む要素としてめちゃくちゃ大事だと思う。

美術もすばらしいし、衣装や部屋や小道具のルック、こういうところで「ひっかからない」つまり「気にならない」ことが傑作の条件だし、それって実は奇跡みたいなことだと思う。

映像の美しさと劇伴

カメラアングルが、この映画の主題に合わせ全体に絵画的。グレーディング美しい!自分はもう「原作無しのオリジナル映画」として今作を観ることはできないんだけど、普通にすごいクオリティの邦画じゃね?と思う。

劇伴。YOSASOBIの『群青』使わないの?って予告時点で思ったけど、観ると全然納得。この映画は、もっと重い。

原作の良さがそのまま出てる

男女色恋沙汰がないこと/進行のために悪者を安易に出してこない/など、原作の良さがちゃんとそのまま維持されている。
(映画向けにちょっと色恋を…なんてことしたらもうOUT。そんな失敗例も山ほどある)

苦言

少しテンポがゆっくりなので、これは映画館向きの映画だと思う。

幼馴染みユカちゃんとの関係や、彼の苦悩については、もう少し掘り下げられても…と思う。原作ファンは脳内補完であまり問題はないのだけど。

これから

原作者は今作を受験マンガに留まらず、藝大マンガ、その後のプロの世界も描いていくつもりらしい。本連載は今、藝大生活からプロの片鱗が見えているところ。
繰り返すが、同じ座組で藝大編・プロ編が観られたら自分は本当に嬉しいです。

友人とのやり取りとか、お母さんをスケッチするシーンとか、名シーンが山ほどありました。

正直冒頭から、クオリティの高さが嬉しくてずっと涙ぐんでいたし、何なら半分位涙ぐんで観ていたような気もする。おれはちょっと極端。

山ほどあった「こうなっちゃったらOUT」の道を一つも踏み外さす、実写ならではの魅力を加えた、原作への深い理解と愛情を感じる、とっても良い作品でした。原作者もきっと嬉しいんじゃないかな。

「パーム・ナイト」から10年。

なにかで急に気が滅入ってしまっていたのだけど、ぽんっと久しぶりの友人からLINEが入り、「ちょうど10年前の今日、あの日だったよ」と教えてくれた。

池袋での「パーム・ナイト」。

獸木野生・旧伸たまき氏により40年以上続いているコミックを熱く語ろう、という回。同年に初めて開催された新書館の公式イベントで知り合った数人で主催したのだった。この年の出会いは本当になんというか一生の宝物だ。

獸木野生『パーム』オフ会「パーム・ナイト」開催しました

その後も3月のライオンの映画を一緒に見る会をやったり。

『3月のライオン』映画をぶっ通しで観る「ライオン・ナイト」を開催


上京した時に呑んだのも本当楽しかった。いろいろ思い出してなんか人生救われた感。

その後、今年坂口恭平さんを呼んでくれて一緒にイベントのアレコレをやってた彼女が2階のtetoteさんの企画展ついでに赤ちゃんと寄ってくれて、共通の知り合いのことや、自分の投稿きっかけに『虎に翼』を観はじめてた話とかしてくれたりして。嬉しいなぁ。そっかー。坂口さんのトークは6月だったんだ!と思ったり。

自分は「あっという間に時が過ぎる」感じが滅多になくて、いつも毎年「今年の1月のことは遥か昔のようだ」と思ってしまう。6月の坂口恭平さんも2年前くらいに思える。パーム・ナイト、まだ10年前なのか。記憶力のないせいでこんな感じなのかしら。

人に会うことで自分はなんとかやっていける。ほんとは毎日でも呑みに行きたいけど笑、娘の受験やら家庭の事情でそうもいかない。せめてお茶しに寄ってってください。

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自分の書いた昔のPALM関係の記事を読み直していた。獸木野生氏はこう書いている。

さて、人間同士がきちんと礼を交わして別れることは意外にまれです。特に作家には決まった退職年齢もなく、読者に改まって感謝を述べる機会もそうありません。

わたしは長い物語を書いているので、話が終わるときには、ずっと読んでくれた人にきちんとお礼を言いたいものだと常々思ってきました。そして今その時が来たようです。

会いたい人、御礼を言いたい人は、明日にでも会えない人になるかも知れない。会いたい人には今会っておくべきだ。自分に言い聞かせるために。

マンガの新規開拓

「マンガとうまく付き合えなくなって」と、
『フリースタイル』誌に宇田智子さんが書いてた。「このマンガを読め!2019」特集号。
掲載されている皆さんが、どうやって毎年、新しく面白いマンガと出会っているのか、分からないと。

そう、おれもここ数年は、続刊やよほど好きな作家の新作しか買っていない。付き合い方が分からないというより、もう少しなんとかしたい。昔はこんなじゃなかったのに。

今は書店でちら見ができないのが決定的に駄目だ。シュリンクは論外だが(これも外すのが本当にイヤ)、シュリンク無しの本でも「立ち読み防止」ビニール紐のせいで、自分好みの作品を開拓することが不可能になった。

ごくごく限られた激推し作品だけは抜き刷りを置いているけど、話にもならない数だ。書店は良い作品をお客様に紹介することを諦めているのか。ネットで評判を調べてから、買うのはAmazonじゃなくお店に来てくれとでも?

(近くの大規模書店(某パチ資本)のレジでは、立ち読み防止の黄色いビニール紐を「外しても良いですか?」と聞いてくる。そのたびに
「な・ん・で・お・た・く・の・ゴ・ミ・を・わたくしが引き取るかどうか、お聞きになるのですか?」
と思いながら、ぶち切れそうなのを抑えて「はい」と答えるのだ。
(最初のうちは少しでも改善してもらいたくて店員に伝えていたけど。もう何も変わらないのでやめました。)

店頭の新規開拓ができない、そんなこんなの状況を打破するために『フリースタイル』なんかのマンガ特集を買って、そこから試しに買ってみたりしている。あとはやっぱSNS情報が一番多いかも。

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写真はそんなやって買った新規開拓に加え、好きな作家の新作旧作。

フリースタイルで推されていたマンガ3冊、確かにみんな面白い!
面白いんだけど…多分ほとんどのマンガ好きに「面白い」と言ってもらえるような作品なんだろうけど、自分的に「これは一生つきあっていきたい!」までではなかった(上から3冊)。

●泰三子『ハコヅメ』:交番勤務女子の業界・人情もの。続刊はもっと盛り上がるのかも知れないけど、買うほどでない…かな。

●吉本浩二『ルーザーズ』:漫画アクション誌を創刊した編集者たちのノンフィクション。漫画的表現スキルがあまりに稚拙だけど題材が面白すぎるので、これはきっと続きを買う。モンキー・パンチの若き時代とか出てきます。自信もなく絶望寸前の若き彼。

●森田るい『我らコンタクティ』:こっそりロケットを作る内気青年とそれに絡む世間ズレした女子。1巻完結。これは面白かった!

●清原なつの『じゃあまたね』:高校大学とずっと大好きだった作家さん。その少女期を描く自伝。ドラマ仕立てではなく当時の流行ややっていたことを淡々と日記風に描いてる。う〜ん、なつのさんはやっぱり昔のSFやファンタジーが好きです。

●瀬野反人『ヘテロゲニア リンギディスコ』:「魔界」に入り魔物たちの言葉を解析しようとする言語学者の弟子の話。表紙から何から『ダンジョン飯』の二番煎じっぽくて、荻上チキさんが激推ししていなければまず買わなかったと思う。内容は…確かにオリジナリティはあれど、主人公のルックスから性格から『ダンジョン飯』の主人公と似ていて、もうスピンオフみたいな気分で読んでしまってた。続刊は…買う…かな

●九井諒子『竜の学校は山の上』:作者初めての作品集らしい。ダンジョン飯以前の中短編はそこそこ読んでるけど、自分の中ではそこまでの位置になかった。この短編集はそれらより一段上だった。忘れられない魅力がある。

まだまだ積ん読あるのでここらへんで。

#readinglist_dsm

『バッタを倒しにアフリカへ』他感想

併読するにも程があるってもんで、手が付いてないのも、読み終わってないのも沢山。でも皆面白くて…。

『重版出来!(12)』12巻にしてまったく衰えないどころかアップグレードしてる。安井さんがここにきて…脱帽。

『古本屋台』日本酒を飲みながら読むのに最高お薦め。

氷川竜介『倍蜜の人生』自費出版の自分史で、年ごとの時事ネタが懐かしい。セルフ出版で編集者がいないとはこういうことか、と比較して初めて意識されるものですね…。でもだからこその勢いが読み所。出会えて良かった。

大作SF『零號琴(れいごうきん)』にも夢中だがまだ途中。

それより一気に読み終わった大傑作が『バッタを倒しにアフリカへ』。学問研究エンターテインメント。お調子者な表紙&タイトルのくせに、中身はまっとうにバッタ研究を追い続ける学者の苦闘のドキュメント。それを見事な文才で波瀾万丈のエンタメに仕上げている。学者とは何をどうして食べていってるのかが、すごく良く分かる。クライマックスが何度も訪れ、泣かされる。筆者の「研究」に対する意欲と愛が全編を貫いていて、感動を呼ぶ。

黒田硫黄の新作はちょっと…。こういうとこで前述の吉田秋生やゆうきまさみやくらもちふさこの、何十年経っても新しい感動を生み続けるという奇跡を思う。『かげきしょうじょ!』の作家も晩年の『ぶ〜け』に描いていたらしいので当時は読んでいたのかも。これも大傑作。

榎本俊二『映画でにぎりッ屁』もさほど。漫画家の映画エッセイはいくつも出ているけど、いわゆる「映画好き」や「シネフィル」なマンガ家の描いてる内容はいままでも大抵ピンとこない。このニュアンス伝えるの難しい。自分はもともと映画嫌いだから見どころも違うし当然ちゃ当然。自分の「脚本至上主義」が改めてよく分かる。
3月のライオンと乙嫁語りも新刊出てる。ああシヤワセ。

内藤泰弘初期短編集『S.Flight』


内藤泰弘さんのアマチュア時代の短編作品が一冊にまとまって復刻された。『S.Flight(KADOKAWAハルタコミックス)』。持っていない作品もあったのでとても嬉しい!

元の同人誌はずっと判型が大きい。自分が初めて買った同人誌でもある、30年以上前の処女作『サンディと迷いの森の仲間たち』も掲載。勿論ネームはワープロ打ちだ。今読んでも当時の感動がそのままに蘇る、紛れもない傑作。『トライガン』とはちょっと趣が違う、宮崎駿系も少し入ったハートウォーミングファンタジーが得意な作家さんでした。ネームの構成とかレイアウトがとても複雑な人なので(早く言えば何してるかがちょっと分かりにくい)、漫画慣れしている人に限り、おススメです。

そう言えばこの本で当時初めてコミティアの存在を知ったんだっけ。と言ってもいまだ行けたことは無く、どっちも『ぱふ』経由の直接通販だったと思う。当時は雑誌に作家さんの住所が普通に載ってて、現金書留とか為替とかを送ってた。色々思い出した。もちろんメールもなかったから感想は「手紙」が当然だったしね。

『銃座のウルナ(4)』感想


装丁も凄いのだけど中身はもっと凄い4冊。異境-戦争SFファンタジーだった筈が4巻になってミステリーの要素も深く加わった。次の5巻で描かれるであろう破滅の予感に恐れおののいている。
ジャンルなど無いかのように行き先も分からず浮遊する感覚。徹底してリアルに作り込まれる異世界。
漫画部会をやったら紹介したい作品。

『3月のライオン』映画をぶっ通しで観る「ライオン・ナイト」を開催


映画『3月のライオン』前後編をぶっ通しで観ながら、ダラダラと吞み食べお喋り(絶賛)する会、というのを先日東京で開きました。有り体に言って最高でした。

愛すべき映画やテレビを流しながら気持ちを共有する会、というのは本当に楽しい。最近だと医学町ビルの「カルテット・ナイト」なんてのは本当にいつまでも忘れられない位幸せな夜だった。

さて、この『3月のライオン』映画版で吞み会をする場合は、一緒に過ごすメンバーがとても重要だと最初から思っていました。原作モノで、その原作は現世で最高かと思える位の傑作で、だけど映画版はあきらかに大幅な改変が行われていてそこが気になる人も多い、どころか全然評価できない人もいらっしゃる様子。

自分も最初映画館で観ている最中は確かにその改変がショックだったけど、物語が進むにつれて納得できた。実写ではむしろこの方が納得できる流れだし、最終的には羽海野チカさんが血反吐を吐いて紡いでいるあの漫画の「魂」を明らかに受け継いでいる、愛情に溢れた傑作だ!と観終わった瞬間に思ったのです。だからまず言いたいのは「羽海野さんは最高の幸せものだ」ってことだし「羽海野さん、おめでとー!」って気持ちだったりします。

羽海野さんも「原作者がこんなこと書くのは宣伝じみててあまり良くないことだと思うんだけど」「でもあまりに良い作品だから皆に観てほしくて」Twitterでさまざまに感想を書かれていました。

こんな時に、観ながら一緒に吞んで話したいのは、「イチを聞いて十を察する」仲間。まっさきに思い出したのは羽海野チカ原画展を見た時の感想を一瞬でも確かに分かち合った人達でした。血反吐を吐くようなネームの試行錯誤を見た時の、あの気持ち。素晴らしい作品を生むまでの努力、その凄まじさを間近に見せられた時の、畏敬とも言えるような気持ちを共有した人達。そういう「前提」がある人達と話したかった。

ということで漫画『PALM(獸木野生)』初の池袋公式イベントをきっかけに知り合い、これまで何度もオフ会を主催した方達と、今回は東京で「ライオン・ナイト」を開催しました。しかも前後編だけで4時間以上と長いので、メンバーのお一人のお宅にお邪魔して、こたつに入りながら。お酒と好きなおつまみを買って、計何時間話したことだろう。これ最高かと。

家主の好きなものに囲まれた(どこか川本家に通じるところもある)居心地の良い空間で、こたつを囲みあの映画を好きにくっちゃべるこのシヤワセ。もちろんイマイチなところもあって、本編以外の宣伝系はすべて呆れるほどダメだっていう話とか(本編とまったく違う予告編や、ディスク宣伝のメインビジュアルの補正しまくりつるっつるな神木君のキモい写真とか)。

神木君はやっぱり顎のラインが最高とか。主には島田、後藤、宗谷の匂い立つ色気の話なんだけど、でもでも香子もすごいし子役も見事だし神木君は神だし、まだまだアレもコレもと話は尽きない。家主は本編にエキストラ出演もしているので、その時の裏話も楽しい。これ以上満たされた環境はあるだろうか。イヤないよ。

本当に幸せな時間を、ありがとうございました。最高でした。

重版出来!(10)



10巻にもなってこのカンペキさ。今年ナンバーワンかって位の隙の無さ。フォントデザイナー、ファッション誌のマンガ特集、映画化、採り上げるエピソードすべて、上っ面をさらって「取材しました〜」的な落とし込みは1つもない。出てくる皆に血肉を感じて毎回泣いてしまう。

素晴らしい作品が出来上がる時、その裏側にあるさまざまな人達の並ならぬ努力と魂の様を見せてくれるのがこの『重版出来!』な訳だけど、まったく同じことがこの作品自体にも言える。巻末クレジットに出てくる関係者の名前すべてに、きっと同じような物語がある。数々の名作を送り出す小学館の担当編集山内さん、責任編集、デザイン、販売、宣伝、制作、スペシャルサンクス、すべての個人名の裏に、ドラマが見えてくる。このメタ効果。そもそもこの作品自体が最高に幸福な映像化を成し遂げたことを思うと、また二重の意味で感動する。

冒頭、自分の小説のためにオリジナルフォントを作って欲しいと要求する小説家のエピソードがあるんだけど、そもそもフォントって読者に「これいいね」なんて意識されるべきではないし(フォントデザイナーは誰一人としてそんなことは望んでいない筈)、ましてや小説の本文、そうそうオリジナルの意味なんて出せる訳ないでしょ…と内心思いつつ、読み進めたんだけど。

最後に完成したフォントでの本文組みを見て、「あ、これはひょっとしてアリかも」と思わされました。驚いた。勿論、実際に掲載されているフォントの「本物の力」があってこそだ。

映像の感想で良く書く「美術の説得力」と一緒。なんでも取材先の字游工房からフォントごとの掲載許可をもらったそうです。きっとこの掲載許可に至るまでも、マンガの中と同じドラマがあったんだろう。作者松田さんの見ていないところでの編集者の熱弁があったのかも知れないし、預かり知らぬ人が字游工房に対して松田さんのことを後押ししたのかも知れない。

仕事はおおよそ、そういうドラマで動いているんですよ。業界関わらず、誠実な人がちゃんといる場所であれば。この1冊に入っている話は、今もどこかでこのまま起こってても何の不思議もない。

取材がちゃんと自分ごとになっている作者の手腕の凄さ(そしてもちろん編集さんをはじめとする周りの皆さんの凄さ)。

「仕事をする」って「世の中をつくる」って、どうゆうことかをちゃんと形にして描き続けてくれている。大好きな作品です。

『映像研には手を出すな!』感想


今月2巻が出るので読み直したんだけど…。
もうこれね、大好きを通り超して、読んでて涙が出てくる位。こんな気持ち誰にも通じないと思うけどさ。嬉しいのですよ。今どきこんな話が読めるってことが。
冒頭、3人が出会ってから、浅草と水崎が最初に絵を合わせて金森が計画決めるまでのところとか。
浅草がアニメにのめり込むきっかけがコナンだったとか。
最後の部活予算委のやり取りとか、上映したあとの役員さかきの顔と対比して反省会と次回予定話してる3人の見開きカットとか。
とにかく、1巻は最初から最後までカ・ン・ペ・キ。涙が出るほどカンペキ。

しかも作者は24歳ですよ!こんなに未来に希望がもてるニュースがあるかっての。

ところで、欄外の人物のセリフを、パックマンみたいな(針が中に食い込んだ)吹き出しで表現するのって、このマンガで初めて見たんですけど。最近はフツーな技法なかしらね?

2巻すごく楽しみにしています。

映画『3月のライオン 前編』感想

『3月のライオン』をシネコンで鑑賞。
「泣いたり笑ったりのエンターテインメント超大作!」とかでは決してないけど、おっさん達と神木君の、匂い立つような濃厚な演技をじっくりと味わえる良作でした。
ちなみに俺は原作の大ファンです。同時代に生きてて良かったと思う。現代のマンガのの最高傑作の一つだと思ってます。

神木君がすごいことは、もうそろそろ分かったつもりでいたのだけど、まだまだ凄いことを思い知らされた。魅了された。目の演技がすごい。真っ暗なライティングで目だけ光るようなシーンがいくつもあるんだけど、目が大きいのも相まって迫力がすごい。

そして、佐々木蔵之介、加瀬亮、伊藤英明、奥野瑛太、甲本雅裕らが演じる棋士達。事前の予告を観ている時に誰もが思う「俳優の○○が演じているからどうこう」とかそゆこと、一切意識させない。くらいにそのまんま。特に佐々木蔵之介の目!目!島田名人そのまま。「佐々木蔵之介」という単語は観ている間には浮かんでこない。圧倒的。皆がもとから島田で、後藤で、宗谷だった。

将棋シーン。基本的に盤上の駒の動きをすべて映画に流せる訳はないから(そうだとしても分からない人が殆どだろう)、棋士2人のセリフのない演技のみで場面が進むことになる。男同士の、むさっ苦しくて鬱陶しい筈のシーンがとにかく凄い。圧倒的。

とはいえ基本的に大きな動きがない訳で、こんなシーンが後半1/3はあるから、「渋い」映画なのは間違いない。だからこそ、おっちゃんの色気(神木君も時に見せる)にアタられたい方は今すぐ劇場に足を運ぶべき。噛み締めると煮汁がじゅっと出る、厚揚げの煮物のような演技だ。

そんな映画だから、きっと大ウケはしないと思う。後編はまだ少し派手になりそうだけど、前編あってこそだからなぁ。それもあって、ぜひ、ぜひ興味ある人には前編から劇場で観て欲しい。これだけの作品を創った制作者には、少しでも報われてほしい。

将棋シーンの演出は、全て棋士がついて「何故ここでこう打つのか。こっちを打たずに今こう打つ意味」を役者にレクチャーしていたそう。劇中一瞬しか使われない試合のシーンも、初手から最終手までがすべて設定されていたらしい(『QJスペシャル 3月のライオンと羽海野チカの世界』より)。こういうバックがあってこそ俳優の力が存分に出せてるんだろうな。

二階堂も良かった。染谷将太が特殊メイクで太って演じている。つい数日前に実写版『寄生獣』を観たばかりで、映画も良かったけど主役の染谷君も見直していたところだった。だけどその染谷将太と、今作の二階堂とは全然結びつかない。それ位、必死で生きる二階堂を見事に演じていた。

だけど二階堂のプロットは、もうちょっと、ほんのちょっと工夫したり丁寧に演出して欲しかった。そしたら彼のあの言動の理由、零が心を許す理由ももっと浮き彫りになったのになぁ。

予告編で零が「将棋しかねえんだよお!」と叫ぶあのシーン、実はその前にまだセリフがあるんだけど、ああやって一部だけ抜き出すのは良くないよなーと思った。実際原作ファンのいくらかは、予告編のあのカットでちょっとひいちゃってる筈。その前のやり取り込みで聞けば、盛り上がりも含めビンビンに納得するシーンなのだけど。勿体ない。

あと神木君をやたらと走らせるのも個人的に好きじゃない。セーシュン映画は主人公が走らなきゃ、みたいなウンザリを感じるのも一因。神木君は走り一つとってもその人物を入念に研究し「桐島」でも今作でも見事にキャラ通りの「走り方」を見せているんだけど。それはすごいんだけど。蛇足に思えたのは確か。動きがないから仕方ないのかな。『ハチクロ』も『3月のライオン』も、セーシュン物なんかじゃない。俺の中では徹底して「仕事マンガ」だ。

原作の楽しげで笑えるところは殆ど今回の映画には感じられない。およそシリアスで暗く、淡々としている。これは思い切った判断だと思うしどっぷり浸かるには良いのだろうけど、でももう少し、たとえ前編であっても、もう少しヨロコビが欲しかったかもな。

【後編の感想は>こちら

『ユリイカ臨時増刊号 東村アキコ』

ユリイカ東村アキコさん臨時増刊号。知っている書き手さんやインタビュー、トークを先に読了。めちゃくちゃ面白い。名言のオンパレードで、自分は本の気になる所、後で見返したいところのページの、下の端を折る癖があるのだけど、この本のインタビューや対談はほぼ全部のページが折られてしまって、役に立たない。「ええ!」て驚く所も、笑えるところも、泣けるところも沢山あって、とても全部覚えていない。

以下メモ。

『雪虎』の最初の取材で一泊二日の上越旅行に行く。その翌日の夜にはもうネームが60ページできていた。普通はプロットもできていないだろう。(各出版社の編集担当座談会で、お互いの「打ち合わせ」のことについて聞いた時のエピソード。基本的に長い打ち合わせがない)

ネームに迷いがない。なにか他のことを話していても仕事がめちゃくちゃ早い。その上直しにも柔軟に即対応する。

普通の漫画家であれば一度に指示できるアシスタントはせいぜい4〜5人。東村アキコは10人以上を扱い定時に仕事を終わらせる。原稿は決して送らせない。徹夜はありえない。素早く的確で気配りのある指示。とにかく褒めて育てる。まずい所を直す場合の言い方の気遣い。見事。

アシスタント達が姉御肌の彼女のことを描くエピソード、いちいち泣ける。ここだけの読みものとしても『ユリイカ』買う価値あり。

アキコさんはユートピアが好き。原風景は宮崎の高校時代。ヤンキーも、オタクっぽい子も、渋谷系のお洒落な子も、みんな共存して仲が良かった。それがすごく好きだった。ヤンキーがオタクを馬鹿にするようなこともなく「アイツんち、マンガがいっぱいあるらしいから借りに行こうぜ」くらいの感じで。

作者本人をして『「私はこの作品を描くために漫画家になったんだな」と思った』と語らせる『BARAKURA』、ソッコー注文しました。

WEBラジオ「身も蓋もナイト」聞かなきゃ。

「ファンにやって欲しいこと」と聞かれた答えも、彼女ならでは。

表紙のおばちゃん絵はアキコさんご本人によるもの。必見。

引用:(「オタク女子の初恋」「アラサー女の恋愛」など)大きなテーマにしか興味を示さない読者の数は想像以上に多くて…。特に地方にその傾向が強く、7:3くらいの割合だと実感しています。物語を二重構造にしないと、作品自体が残らなくなってしまっているのがマンガ業界の現状です。

しかし思うんだ。彼女の活躍見て西原理恵子さんが一番焦ってるんじゃないかと。西原さんは良く漫画中で○○がにくい〜!羨ましい〜!とネタで描くけど、彼女が開拓し切り開いたその道を、きらびやかなオープンカーに多くの業界人をぎゅうぎゅうに載せ「いやいやいや…」と謙遜しながら今まさに通らんとしているのが、東村アキコその人だとおれは思う。人生相談のキレの良さ(しかも好感度高い)とかもね〜。

アキコさんが『ぶ〜け』育ちで、中でも逢坂みえこさんが大好きというエピソードを聞くのがいつもすっごく嬉しくて。おれ大好きな作家さん(『永遠の野原』当時はナンバーワンだったかも)だけど、周りにファンがあまりいないから。『かくかくしかじか』で、まだ見ぬ東京の担当さんが、いちいちぶ〜けの登場キャラになって出てくるところは爆笑した。『ぶ〜け』は一冊通しての世界観が他にはない居心地の良さだった。掛け替えがないとはあのこと。

アキコさんの作品はごっちゃんとかくしかが頂点であまり熱心なファンとは言えなかったけど、ユリイカを参考に過去作も読んでみようと思いました。

『白暮のクロニクル(10)』『でぃす×こみ(2)』

ゆうきまさみの新刊二冊が同時発売!

『白暮のクロニクル』は最終巻前のクライマックス。ゆうきまさみ史上最も?ハードな描写だと思うけど、最低限の安心感はキープ。地味〜に重ねてきた連続殺人犯の謎も殆ど明らかになり、ノリもいい。よくある、謎が謎を呼んで尻も拭かずに興味の持続だけで話を続けていくタイプのアレとは違いますよ。そう、ゆうき作品の大切なポイントとして「ちゃんと尻を拭く」「確実に風呂敷をたたむ」が挙げられると思う。そこの誠実さってすごく重視します自分は。

『でぃす×こみ』は未だ先が見えないけど、これも地味〜にマンガ家あるあるな制作のプロセスをおっかけていて、その細部の見せ方がすごく上手。ゆうき作品の最大の好きポイント「淡々とした日常を描写できる」スキルあってこそだと思う。一冊の中でこれぞ!という盛り上がりがないのも、それでいてちゃんと読ませるのもすごい。ゆうき作品のクライマックスは単行本数冊に一カ所だから。連載よりも単行本で読むのがお薦め。

いずれにしてもこの地味さと淡々とした展開、だけどじっくりと丁寧に進む物語の魅力は、どちらかといえば特殊な気がして、だからゆうき作品って知らない人にはとってもお薦めしずらい。マンガ部を発足させたらこのゆうき作品を紹介することにもチャレンジしてみようと思う。お奨めは『じゃじゃ馬グルーミン UP! >当ブログの感想』。あと『鉄腕バーディー>当ブログの感想』も素晴らしいよ。

  

池辺葵『雑草たちよ大志を抱け』

『プリンセスメゾン』作者が田舎の地味な女子高生を描いた新作。まだ年のはじめなのに、今年を代表する一冊になりそうな予感ビンビン。大好きです。

それとは別に思うのは、今作や『3月のライオン』のような話が、ちゃんと中高生に届いていて欲しいな、ということ。こういう物語を切実に欲している誰かに。救われるかもしれないひとたちに。自分はマンガがあれば大丈夫だったから。

  

『TRIBUTE TO OTOMO』

V.A.『TRIBUTE TO OTOMO』が届いた。大友克洋を尊敬する作家が寄せた、大友作品モチーフのイラスト集。31×25センチの大判で良い紙使って束感たっぷりだけど、掲載アーティストの殆どは知らないバンド・デシネ作家。もっと日本の作家さんが沢山載っているかと勘違いしていました。半分がイラスト、残り半分が作家のプロフィール紹介です。うーん。コレクターズアイテム…

士郎正宗があの頃から30年も経っているのに相変わらず欄外にウンチクと言い訳を書き連ねているのに笑っちゃって、同時にちょっと安心。ひと目で好きになったのがこの貞本義行さんのイラスト。この目が離れてる女の子、分かってるなぁ〜!!一気にあの頃の気分(てもリアルタイムじゃないけど)に戻ることができました。それだけでもありがとう。

岩本ナオ『町でうわさの…』『スケルトン イン ザ クローゼット』田中圭一『うつヌケ』

岩本ナオ『町でうわさの天狗の子』全12巻読了。
半分以上はダラダラふわふわな高校生の恋愛物語。それが後半になって一気にファンタジーアクション大作へ。しかもクライマックスにあのネタまであるとは。恐れ入りました。先に読み終えてた長女に「11、12巻が凄すぎる」と聞いていたんだけど、本当に泣ける展開だった。大満足のラスト。
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くらもちふさこ『花に染む』完結

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くらもちふさこ『花に染む(8)』10年の時を経て完結。高校の弓道部をメインにしたこのタイトルだけじゃなく『駅から5分』や短編も含めたさまざまなストーリーが同じ街を舞台に展開していくという、大掛かりな設定。

10年以上も経つと正直覚えていられないので後で全部読み直さないと全部が頭の中で繋がらない。しかしくらもちふさこさんも、吉田秋生さんも、あの歳になって中高生の心の機微をこれだけ繊細に書けるのは呆れる程だし、これが少女漫画家を追っかける醍醐味だとも思う。

80年代に読んでた別マでくらもちさんは正直好きではなかった。紡木たくやいくえみ綾の全盛期で、絵柄のイケてなさもあったと思うけど、何よりその描かれていることの「普遍性」が、自分が別マに求めていたものと違っていたんだろうなぁ。その後の『天然コケッコー』でまずガツンとやられ、それ以降のくらもち作品はすべて大ファンだ。『夜叉』で一回離れてしまった吉田秋生さんに、『ラヴァーズ・キス』や今ナンバーワンとも言える大傑作『海街diary』で再び虜になってしまった経緯と似ている。くらもちさん、次回作にも大期待です。

ABOUT

1999年のWEB日記時代から始めた個人サイト。ブログ移行にあたって過去記事も抜粋してアーカイブしています。
(HTMLサイト→SereneBachブログ→WORDPRESSブログと転移)

好きな漫画(2014年版)はこの記事の最後に。

最近は(インスタ)でアップしているTV・映画感想の投稿を、半年に1回くらい一気に転載しています。