『イン・ザ・ハイツ』をイオンシネマで。監督はジョン・M・チュウ(『クレイジー・リッチ』など)
ラテンヒップホップ系の『ラ・ラ・ランド』みたいな映画。ただし目指すはハリウッドではなく、自分がなりたい職業に就くことだったり、お金を貯めて故郷へ帰ることだったり。
舞台は中米系移民の街、マンハッタン北部の実在の街ワシントン・ハイツ。皆明るいが低賃金労働で苦しむ中、ドミニカ出身の主人公ウスナビはコンビニを営みながら、故郷で父の店を再び出すことを夢見て貯金をしている。彼が想いを寄せるのはデザイナーを目指し美容院で働くヴァネッサ。他に秀才で街の期待を負い名門大学に進学したものの、差別に耐えきれず退学してしまったニーナ、タクシー会社で働くニーナの恋人ベニーたちの日常。
物語の軸になるのは大停電だが、そこまでエキサイティングなストーリーがある訳ではない。「何度でも立ち上がる」ハイツ住民達の生き方を、ほぼ全編のミュージカルで描く。優しくて、ちょっとサプライズなエンディングが待ってる。
特に冒頭、セリフ込みですべて一編のラップになっている8分のアヴァンタイトルは圧巻(YouTubeで公開されているので是非)。これを見たのが今回のきっかけだった。『ラ・ラ・ランド』もそうだけど、『ベイビー・ドライバー』アヴァンの、全ての動きが音楽になっているあの感じも思い出す。
監督はアジア人オンリーの『クレイジー・リッチ』(最高に好きだし娘達は3回も観ている)でハリウッド初の大ヒットを飛ばし歴史を変えたジョン・M・チュウ。今作も多分ヒスパニック系以外の主要キャストはいないっぽい。
原作はワシントン・ハイツに実際に住んでいたリン=マニュエル・ミランダ作のミュージカル。アヴァンから移動かき氷屋で出てくるプエルトリコ系移民の彼は、ミュージカル、俳優、作曲で各賞を総ナメにしている超天才。
『シェフ』の余韻に似たところもあって全体的に好きなのだけど、ちょっと長いかな。
音楽のジャンル的にも『リメンバー・ミー』や『シェフ』『ベイビー・ドライバー』までは個人的にノれなかったというのもある。でも『ラ・ラ・ランド』みたいに綺麗過ぎないところも面白いし、ラップがカッコ良かった。アヴァンを観て「好き!」と思った人は迷わず映画館へ行くのが吉。(自分はナイト上映で全2人だった。空気感染も心配しないでいい)
それよりこの映画で一番好きだったのは、主人公のやっているコンビニや美容院、個人商店が成り立っているワシントン・ハイツの暮らしの質感・実感だったのだと思う。(地価高騰などでその生活も揺らいでいく最中な訳なんだけど)
コンビニはただ日用品を売っているだけではない。雇っている従兄弟と共に、毎日お馴染みの住人たちの悩み、喜び、心配ごとを聞きながら一緒に笑って暮らしていく。日本で言う「コンビニ」とは違う、昔田舎にあった「なんか屋」に近い。
店主の収入問題を考えなければ、個人商店の集合で成り立っている街は理想的だし、そんな所に住んでみたいと思う。だけどこの映画でも語られているように、地代が上がれば成り立たないし、そもそもCOVID-19でネット通販に一層慣れてしまった現代ではこの先も個人商店・○○屋の存続は難しいだろう。
自分が思う「東京の価値」って、この○○屋や個人商店や商店街がやっていけることが大きかった。維持できるだけの人口と経済基盤があること。それはNYも似ているんじゃないだろうか。
世界が変わってしまった今後は、一体どうなっていくのだろう。