映画『燃ゆる女の肖像』感想

『燃ゆる女の肖像』(2019仏)
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監督:セリーヌ・シアマ

劇場鑑賞を逃したことがあまりに悔しくて、そのせいでこんなに遅れてしまった。もっと早く観ればよかった。静かに燃える恋愛映画の大傑作。素晴らしかったです。

【あらすじ】
18世紀、仏ブルターニュの孤島が舞台。望まぬ見合いを控えた貴族の娘と、そのお見合いの肖像画を依頼され島に訪れた女性画家。お互いは次第に惹かれあっていくが、肖像画の完成は同時に二人の別れも意味していた。

【感想】
情熱的な恋模様はあまりなく、静かで淡々とした描写が続く。画家マリアンヌが貴族の娘エロイーズを見つめる目線。それを見返すエロイーズの目線。目線がクライマックスという恋愛映画は大抵傑作じゃないかと思う。
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(以下ネタバレあります)

主人公の画家マリアンヌを演じたノエミ・メルランの知的な画家目線(それが後になるいくつもの意味を持っていく)、その表情がとにかく良い。エマ・ワトソンの表情を思い出すのは自分だけじゃないと思う。

画が描かれていくその詳細描写も、それだけで観ていたくなる。マリアンヌの表情と合わせ見とれてしまう。

メインの登場人物は極端に少なく、ほぼすべて女性。
エロイーズを結婚させようとしているお母さん、メイドのソフィの4人でほぼ全部。メイドの彼女がとっても大事で、2人の恋愛関係だけじゃないシスターフッド要素を映画に加えている。

メイドのソフィを演じるルアナ・バイラミさん、どことなくちはやふるの上白石萌音さんを思い出す、木訥田舎娘バイプレーヤー。

ソフィはマリアンヌの生理痛を思いやり、絵画の進捗をサポートし、「(エロイーズに)笑顔がない」とぼやくマリアンヌに対し、「おたがいさまでは?」と絶妙な突っ込みを入れたりしてマリアンヌの信頼を得ていく。そんなソフィは雇い主であるお母さんの留守中に中絶(他の選択肢はない)をしようとして、それを主人公2人が見守り、助ける。

母の留守中、3人がカードゲームをしたり料理を作ったり『オルフェウス』に関して議論をしたりする5日間が泣ける位の多幸感なのよ…。
(中絶は勿論、女性が受けるあらゆる不条理と対になって)ユートピア感極まれり。

島のシーンのどこかに「物言う男」が出ていたら、きっとこの映画全体のパワーは損なわれていたんだろうな。今にも続く女性の不条理と、それ故の2人の決断を、男性を「出さずに」語る、思いを至らせる手法。見事に成功している。
(最後に絵画展のシーンでは男は出てくるけど、やはりお互いまったく「見ていない」関係のまま。そしてあの「28」!)

マリアンヌが冒頭エロイーズに貸した本『オルフェウス』のストーリーが最後までベースになっている。冥王ハデスに「最後まで決して振り返ってはいけない」と言われたのに、妻が心配なあまり振り返ってしまい、その瞬間に永遠に妻を失ってしまったオルフェウス。

エロイーズが「振り返ってよ!」と叫ぶあのシーン、
そしてラストのあの長いワンカット。振り返るのか?振り返らないのか?
生涯忘れない名シーンだった。
(曲が冒頭のマリアンヌが弾いた曲と同じだってことは、気付かなかった。後で知りました)

マリアンヌとエロイーズを演じた二人は、元はプライベートでもパートナーで、映画撮影直前に解消していたそう(宇多丸氏情報)。映画を味わった後にこういう話を聞くとまた感慨深い。

全編どこを切り取っても美しい画づくり。
特に印象的だったのは、あの3人が並んで島の草原を歩いていくシルエット。
美術、衣裳はもちろんキッチンツールなんかのディテールもすごく素敵。火を移す時のろうそく型簡易ライターみたいな奴、気になる…。

良いとこしか思い出せないし、他にも書いてないこといくつもある気がする。
『キャロル』が大好きな人にお勧めします。

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