映画『ケイコ 目を澄ませて』感想

『ケイコ 目を澄ませて』をユナイテッドシネマ新潟で。
監督・脚本:三宅唱(『きみの鳥はうたえる』)

ろう者の女性プロボクサーの自伝本を原案に、岸井ゆきのが主役を熱演。
それほど大きな事件は起きないが、劇伴もなくセリフも少ない中で常に画面と音に集中させられる稀有な体験だった。

映画は皆そうと言われればそうかも知れないが、「人生」の映画だと感じた。人はどう思い、誰と出会い、どう影響されていくのか。その様子をつぶさに、でも説明することなく16mmのフィルムに焼き付けた美しい作品。

2/2までの上映延期が決まったので、気になる人は劇場を逃さない方がいいと思う。

以下内容にも触れています。


●岸井ゆきのの代表作になるだろう。自身でもターニングポイントになったと語っている。元から好きな俳優さんだったけど…今作ではもう「俳優:岸井ゆきの」とは思って見ていない。完全に別人レベル。

●ろう者でセリフのないケイコの気持ちを推し量ろうと、我々はその表情やすべてに注目する。それは劇中でケイコがマスクをした聴者の話を、なんとか推し量ろうとしている姿にも似ている。

この「おまえもまた見つめられているのだ」的な相互作用感が不思議。映画という枠組みを通して、ろう者を疑似体験しているかのような。

●劇伴がほとんどない。ろう者が主人公の作品ならではの意味も感じる。その代わり環境音やSEがすごく印象的に使われていて、これも劇場鑑賞ならでは。

●会長とシャドーボクシングをしているシーンに嗚咽。この役、三浦友和がベストだとは個人的には思えないが、でもさすが、の貫禄。

●岸井は3か月ジムに通いボクサーになりきった。
(この3か月という期間、インタビュー等ではおよそ「3か月も前から」だけど、岸井自身は「3か月しかなかった」と語っている)
ジム通いでは監督も一緒に習い、同じように鏡を見ながら二人でトレーナーのシャドウを真似していたこともあったという。

作品とは、ボクシングを通じてとか○○を通じて、何かを語るものが多い訳だけど、この「通じて」の箇所が問題で、「使って」に見えてしまうと興冷めしてしまうんだよね。監督のボクシングへの理解が血肉になっている様子が、説得力となり現れているように思えた。

実際ジム通いの後に監督が直した脚本を見て岸井は「何も話してないのにどうして気持ちが分かったんだろう、という位に同じ気持ちで、しっくりきた」というような話をしている。

●弟役もいい。会長の美人の奥さんは誰…と最初思ったけど仙道敦子さんと気付き嬉しくなった。最近の彼女の演技はどれもいいよね!今作で及ぼす力もとても大きい。

●荒川区北千住の、川を中心とした日常の景色が見事に切り取られていて…その質感まで感じる撮影が本当に美しい。最初から最後まで印象的。
自分はフィルムの持つ粒子感や陰影が大好きなので(だからインスタでもフジを使っています)ルックの面では今年ベスト級かも?(早過ぎ)

●コンビネーションミットと言うらしい、トレーニング中のランダムな打ち合いに冒頭から圧倒される。説得力が凄い。そして同時にトレーナーとの(言葉を超えた)信頼関係やボクシングというものの凄さをしみじみと感じさせるから、ボクシング映画としても優れているように思う。

●何故続けるのか?ではなく、続けていくしかないよね。人生。

●最後のシーン、対戦相手と普段の姿で出会い、感じる、ケイコの表情とラストカット。映画の結末として本当に素晴らしい。

終映までに間に合ってよかった!

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1999年のWEB日記時代から始めた個人サイト。ブログ移行にあたって過去記事も抜粋してアーカイブしています。
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