DVDで鑑賞。最後まで笑って泣いて…本当に愛しい作品です。
(以下ネタバレありの感想)
Twitterで「大学どんぴしゃで同じ世代」なんて書いちゃったけど、正確に言えば4〜5年世之介の方が年上です。まだバブルの名残があった頃、かな。長崎から上京してきた主人公・横道世之介が東京で仲間たちと触れあい暮らす大学一年生の何気ない日々に、将来大人になった彼らのシーンが時折差し込まれ、現代と過去を行ったり来たりする構成。あの愛すべき『サニー(→感想へ)』と似ているけど、横道は過去シーンのボリュームがかなり多いです。
映画的にストーリーと呼べるような起伏は、ほぼないままの160分。だけど、最後には別れがたく感じてしまう、愛すべき主人公たち。160分間であっという間に過ぎていく、あの時代の物語。
時代考証に時折アレ?と思うことはあれど1987年当時の風俗、髪形や服装などは本当に自然に見えて、冒頭の大学入学シーンなんかは(アラフォー以上の世代にとっては)それだけでもタイムスリップ気分を味わえると思います。ああ、いたいた。ああ、あったあったこうゆうこと。同い年の宇多丸さんがラジオでうまいこと言ってたけど、「人生の中で本当にわずかここだけだけど、何者にもなれる可能性が開けていた」時期。何者でもなかった自分が、それまで拘束されていた生活からすべて自分で選択できる大学生活に進み、何者にも「なれるかもしれない」という浮ついた気分になるあの数年。(まぁ私の場合はそれまでも拘束とかなかったし、将来やりたいことも決まってたから「何かになる」ことさえ一切考えてないほど浮ついていましたけどね)
主人公・横道世之介は、予告編での印象とは違い、本当に普通の、あ、こういうヤツいたね。という男。だけどそれが重要で。いたように見えて、実はなかなかいない天使のような男なの。「誰にでもある、誰にでもあった、日常の幸せ」を美しくフィルムに焼き付けパッケージングすることで、観る自分たちの日常の中にも天使を見つけられる、もしくは天使がいたかのような錯覚を起させてくれる。(このような世界観が嫌いな人がいらっしゃることも存じております)
観ている人それぞれが持つあの時代の思い出を、美化し、思い起こさせるという効果。それをこの世之介という男自体が体現している。
そしてヒロインの祥子を演ずる吉高由里子がもう最高最高最高チャーミング。ちょっと間違ったらマンガチックでどっちらけになってしまう現実離れしたお金持ちのお嬢様を、本当に嫌みなく演じていて。初登場直後のダブルデート、ハンバーガーを世之介と2人で食べるシーン。これ初登場から数分後ですけど、もうココから素晴らしいの。持っていかれます。およそ「恋愛もの」に興味ない私ですが、この2人のカップルのシーンはずっと観ていたい。この多幸感たるや!ですよ。吉高さん以外が演じていたら、この映画とてもこうはならなかった。まぁ世之介も同じだけど。
なのでその後にインサートされる将来の祥子ちゃんの姿には、納得はいくのだけどやっぱり寂しくて。あの未来と過去が交錯するシーンとかもうたまんなくて。お肉挟んで食べるトコロもぐっときたなぁ。
初見一番の見どころは祥子ちゃんがケガで入院して、初めて世之介を呼び捨てにする、って宣言するところだった。この表情がもう300点満点ですよ!世之介が「俺がケガしたら祥子ちゃんに真っ先に連絡するから」って言ったあとの、ちょっと泣きそうなのを堪えてクチがとんがって、うつむいて、そして振り向いた後の決意の目つき。凡百の役者さんだったら、往々にして演技のわざとらしさ感で少し白けちゃうところですよ。祥子ちゃんのこのシーンの表情、すばらしい。将来の職業に繋がるような芯の強さを、ここだけじゃないんだけど随所随所でちゃんと役者が体現してるのが、この映画のすごいトコロ。ナレーションでもプロットでもなく、その人を見ているだけで、実在感があって。納得できる。引き出す監督の力なんでしょうか。
いやーすごい。この2人。退院する時に「今夜は一緒にいたい」とかもー、むずがゆいんだけどすっごくよく分かってもう。たまんない。←こればっかり。
世之介はイケメン高良君が演じているんだけど、でもなんかあの頃のモテないダメなかんじを、仕草と演技だけで完全表現している。これすごいよ。あの両肩を前の方に折る独特のかんじとか。口ごもる時の表情とか。クセで自分の匂いを嗅いちゃうポーズとか。完璧。チャーミングというのじゃないけれど、この演技で映画の世界観を完璧なものにしている。
他にも…
●すっごく細かいトコだけど、エキストラの演技も良かったなぁ。冒頭、町中で3人組のアイドルがライブやってる前で、ガムの試供品配ってる女性の声。「おためしください〜」のあの機械的なトーンね。ダブルデートで行くハンバーガー屋の店員。髪形とか喋り方のリアリティとか最高。「ちょっと席ないんですけどー」のあの人ね。
●自分の大学時代を美化しつつ思い出しながら観ていると、世之介のアパートの怪しい隣人が登場してうっわーこいつARATAじゃん。あまり交流はないけど大学のサークルの後輩だった。もうここらへんでごっちゃになってきた。隣人といえばARATAの隣の女性もいいよね。
さて、敢えてひっかかった箇所を挙げるなら、未来シーンのリアリティ。J-WAVEでラジオをやっている彼女のシーン、まぁーーーしょうもないわ。元々しょうもない人がしょうもない大人になった、ってことなのかも知れないけれど。にしてもリアリティゼロ。あとゲイの彼の未来。もう少し素敵な大人像を用意できなかったものか。あの高級マンションでシャンパンをチンする(これから「マンチン」と呼ぶ)ステレオタイプぶり、笑っちゃうし少しも素敵じゃない。『カーネーション』の「好いとっと」の周防さんだよ?もう出た瞬間こっちはキュンキュンなんだよ。マンチンはやめてよ。その点大学結婚したカップルの将来像の家庭はめっちゃリアルだった。あのビールを挟んだ中年夫婦の会話っぷり。空気感。ウチと一緒(笑)。
アラフォー以上で上京して大学行ってる人はもう「あるある」だけで結構楽しいと思うし、日常の幸せを実感することが何より一番幸せなことだと思っている同志の人にはオススメします。そんなに観返したりはないだろうけど、手許にDVD置いておきたくなる、いとしげな(新潟弁)作品でしたよ。
「作品が手許から離れていくのが寂しい」(高良健吾)
「他の作品には申し訳ないけれど、こんなに過保護のように可愛がって、好きになった作品は初めてに近い」(吉高由里子)〜ニュースウォーカーより
ずっと会ってない、そして多分もう会えない友達のことを思い出して泣いた。あんなに世話になったのに、何も返してないよ。
吉田大八 さん :映画監督
自分の祖父が生前.酔うとニカっと笑みを浮かべて「人は あの世に行って居なくなってからその人がハッキリわかるな。」と時々言ってた事を思い出しました。そして少しですがその意味がわかったような気がします。彼と会ってみたかったです。
ずん 飯尾和樹 さん :タレント
いちばん可愛い吉高さんが観られる映画です!
吉田豪 さん :プロインタビュアー
”ひょうひょうとしているけど、鋭い”。
大学の同窓生でもある沖田監督のイメージです。
同時にこれは、新作『横道世之介』そのままではないでしょうか。眺めるように観れる映画ですが、
うっかりしていると、えぐられます。
筧昌也 さん :「ロス:タイム:ライフ」「美女缶」監督
セリフが気が利いていて、長崎弁もリアル。脇役をきっちり固めて、抜かりがなし。おかしくて おかしくて 悲しい 青春物語
みなみらんぼう さん :シンガーソングライター(法政大学出身)
この長尺にして、どうしても終わって欲しくない、まだまだ世之介をずっと見ていたい。
それだけに回想が切なくて、胸が締め付けられ、いつまでも後ろ髪を引く。
折田千鶴子 さん :ライター
横道世之介、そして高良さんの魅力が溢れ出ていた。
一日一日をどう世之介が過ごしているのか全て知りたくなるくらい、それほど愛すべき存在だった。
そして彼によって影響されていく周りの人間もまた愛おしい。
純真無垢な祥子との間に何があったのか、想像すると胸が痛くなった。
最後に…ハンバーガー食べたくなる。
木南晴夏 さん :女優
あなたの青春にもいたはず。挙動不審で変な髪型で真面目でお馬鹿で笑えるあいつ。
会えなくても思い出し笑いで私たちを救ってくれる世之介が。
ひうらさとる さん :漫画家
この時代から更に10年以上遡りますが、
一緒に過ごした仲間達の顔が浮かびました。
世之介はいなかったけれど、我が学生時代も普通で満更でもなかった。
まだやれる。
嶋田久作 さん :俳優
私の人生の生活圏外にいるのに、いつのまにか鮮やかに心に根ざしたあの人のことを思い出した。
すべてのキャラクターが愛おしく、吉高さんがまた最高に愛くるしい。
とにかく、(日本映画いちファンとしては)
また素敵な日本映画が生まれてただただうれしいです。
三島有紀子 さん :映画監督
ふと思い出すということも、ふと忘れていたということも、どちらも、すべては記憶されていたということを前提としているのだろう──あの花びらも、あの雪も、あの海も、きみのバカ笑いと落書きと、ぼくの照れ笑いとサンバの踊りと、すべては、ふと、そこにあったのだ。
沖田修一の新作は、そんなふうに、ふと、だが確かに、ここにある映画である。
安藤尋 さん :映画監督
160分間ノンストップで笑える奇跡のコメディ! 日々のヤケクソ気分を根こそぎブッ飛ばしてくれる吉高由里子の天才コメディエンヌっぷりに、男子全員キュン死しろ!
岩田和明 さん :映画秘宝編集長
普通に生きることの尊さと、その人をあまりにも無邪気に手放してしまうという残酷さ。この悦びと悲しみを、誰よりもわかち合いたいと思う相手に限って伝えきれない、それがとてもくやしいです。
那須千里 さん :映画文筆家
「世之介って誰?」 そんな疑問なんて全く必要なかった。彼はまるで、誰しもの記憶に必ずひとりやふたり存在する、楽しかったとき側にいてくれ、哀しかったときには逞しい言葉で勇気づけてくれた学生時代の友人たちの様だった。この映画に触れることで、そんな彼らに「ありがとう」と伝えられた気がした。
牛津厚信 さん :映画ライター
どうやら私と世之介は同級生のようである。携帯電話もデジカメもなく、
バブルはまだ崩壊してなくて、シャツの裾はズボンにインして、DCブランドのスーツを着た奴らがダンパのチケットを売り歩いてた、あの頃――。
あれから俺たちは何を失い、代わりに何を手にしたのかな。なあ、世之介。お前はどう思う?
誉田哲也 さん :作家
以上公式サイトより引用
★★★★☆
コメント