先日はついに『プロジェクトX』入りした北海道の旭山動物園。TRIAL AND ERRORさんのこの記事を読んで買った『幸せな動物園』というホンがめちゃくちゃ素晴らしかった。
97年の最初の改装工事から現在にいたるまでの8つの改革を、イラスト/写真/文章を織り交ぜて解説するという内容。さらに巻末付録として「旭山動物園基本計画書」が掲載されています。これは現園長が91年から語り続け、99年に正式に市議会に提出された、旭山動物園の元々の企画書となるもの。
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全体を通して、まず文章が素晴らしい。柔らかく、優しく、分かりやすい。まるで『クウネル』の特集記事を読んでるよう(笑)。それでいて、スタッフ側がどれだけ深く動物達とお客の関係とを考え、苦労を超えて実現したかがものすごく丁寧に語られている。良い面を褒めたたえるだけじゃなく、入札制度や予算、業者との関係などマイナス面もサラッと語られていて、そのバランスが非常に好感。
どうしてもTVなどで語られる旭山動物園は、その斬新なハード面(シロクマが飛び込むプールやアザラシのチューブなど)ばかりになってしまうのだけど、勿論メディアの性質から言ってしょうがない部分があるのだけど、でもそのハードの裏には、現在の盛況ぶりの裏には、ソフトの充実が大きな役割を果たしているのではと思う。
この本で語られている里親探し制度や学校への動物貸出し、死んだ動物の「喪中」報告、世間を騒がす事件に対してボードで表明する「旭山動物園の考え」など、ひょっとしたら他の動物園でもやっているかも知れない事でも、通り一遍ではない最後までキチンと責任を持つその旭山の体制は、当たり前なんだけど、生き物を扱う仕事としての覚悟を感じさせる。要は「ビジネスで考えたらメンドくさく割が合わないコト」に、キチンと手をかけていると思うのだ。
野生の動物を無理矢理檻の中に連れて来て見せ物にしながら「自然」について語るという、動物園という施設が持つ自己矛盾について、旭山動物園は明確な答えを持っている。自らの目指すべき立ち位置を最初にキチンと決めている。そして分かりやすくプレゼンし、綿密に練られたプランで目標を実現し、実績をあげている。
そういった「旭山が成功した理由」は、この本のレベルの高い文章を読めば、おのずと納得できる。決してドコでも実現できることではなかったし、二番煎じならまだしも、「最初の旭山動物園」を実現するのは、本当に苦労が多かったのだと思う。
そういった新しいアイディアは、今では旭山動物園を語る上で欠かせない要素となりましたが、それらはいつも漠然とした「常識」にそのたびさえぎられてきました。新しい動物園づくりは「常識」ってなんなんだろう?そう何度も問いながら進むことでもあったのです。
一度あった事故を常識にし、どうしてそうなったかを考えずにすぐそれに関わる事すべてをやめる傾向は多くの人が知るところです。でもこの時、そこで消された可能性という被害がいつも確かにあるはずです。
生き物に関わる内容だからこそ慎重に、とすべてに保守的にありつづけるよりも、生き物に関わる内容だからこそ、やるからにはその目的につながる可能性を最大限ひきだしたやり方をとっていく、そんなとりくみ方を貫きたいと旭山動物園は考えているように感じます。今、旭山動物園を訪れる人たちの心を動かしている色々なアイデアは、可能性を大切にしてそれを認めて来た周りの人たちの理解があってのものです。生き物を扱っている以上、絶対はありません。日々まっすぐ向き合って話し合い、より良いものをつくっていこうという姿勢をまず動物園がもってきたことが、園外の人たちをうごかしていったのではないでしょうか。
同書「ぺんぎん館」の章より引用
「常識を疑い、覆す」というこの話は、誰でも自分が属する業界に当てはめてみれば分かるように、言うは簡単、行うは難しです。その実現までの試行錯誤が、そして実現した時のヨロコビが、この本には溢れています。読んでいるこっちまでシヤワセになる一冊。
文章だけならまだしも、写真も、エディトリアルデザインも見事にマッチして、「旭山の心意気」を具現化しています。ホント、動物園好きにはすべからく読んで欲しい。しばらく行ける予定もない自分にとっては、宝物のような本でした。
ブルースインターアクションズ (2005/08)
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