『ありがとう、トニ・エルドマン』には「気まずい映画大賞」をさしあげたいと思う。以下少しネタバレ含みます。iTunesレンタル・字幕。
ルーマニアで国を相手にしたコンサル会社に勤める、バリキャリ・独身女性のイネス。彼女を心配して、ドイツから父ヴィンフリートがやってくる。ギクシャクした数日を過ごした後一度帰ったかに見せた彼だが、カツラと出歯の入れ歯を付け「トニ・エルドマン」を名乗り、彼女の周辺に現れるように…。
劇伴が一切入らない、日常そのままのような撮影とリアルな演出が作劇意図と見事にマッチングしている傑作。淡々としているけど飽きることはなかった。
悪ふざけの好きな彼が娘の周りでやらかすイチイチが笑えず、気まずい。パーティーで娘の友達や同僚、時にはクライアントにまでちょっかいを出す父、気まずい。宣伝通り「笑いと涙」の「笑い」の部分も勿論あるんだけど、とにかく気まずいシーンがテンコ盛りで、そっちの方が印象に残る。そのあまりの「あちゃー」ぶりが辛くて、最初少し観るのを中断した位。
娘を思う父の気持ちは勿論とても共感できる。が、それよりも「親、うざっ」と思ってるイネスの方に感情移入してしまう。でも彼女は怒らずちゃんとしてて、凄いな。その怒らない理由も後半で分かってくる気がする。物語は途中から急展開を見せ(という表現が相応しいのかどうか)、親子の絆に涙する。とは言ってもやはり全体には変わったつくりの物語だろう。
ヴィンフリート(トニ)が娘と一緒に、リストラ予定の石油採掘所へ行くくだりがすごく好き。労働者とのちょっとした触れあいを通じて、彼の考え方がにじみ出てくる。淡々とした演出はここでも見事にはまって効果を上げている。
途中のとある歌のシーンでモーレツに泣き、その後の展開には唖然。そしてまた…。色んな解釈を聞いてみたくなる、人と話したくなる映画。感情をあまり表に出さないイネスを演じるサンドラ・フラー、からだ全体で愛を表現するヴィンフリートはペーター・シモニスチェク、ドイツ人両俳優のコンビが素晴らしい。思い出しただけで泣けてくる。
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