恩田陸『spring』感想

恩田陸『spring』(筑摩書房)。
なぜか1ヶ月以上行方不明になっていて、えらいこと読むのが遅くなってしまい、やっと読了。
面白かった!

天才男性バレリーナ:春の少年期から青年期までを、
友人、幼馴染み、叔父、本人と、4つの目線=4つの章で描く。

同じ作者の『蜜蜂と遠雷』は、
「クラシックピアノの世界、しかもコンテストの内容を文章で伝える」
という信じられない難題を見事にクリヤし、読み終わってみると、むしろ文学だからこそ創られる意味があったのだ、と思い知らされるような傑作だった。

これをバレエの世界でまたもや!やってのけたのが、今作『Spring』。踊りの中で演者は何を想い何を見ているのか、観劇者はどこに連れて行かれるのか。体験したようで未体験のようで、やっぱり文学ってすごい…となってしまう。
(でも自分の中ではやっぱり『蜜蜂…』の方が上かな)

そして今作、なんと筆者が作中でバレエの新作を作り出している、つまり演出家やディレクターやコレオグラファーの役割まで果たしている、ということだ。これはもう文藝作家の域を超えていませんか?という…。

巻末のSPECIAL THANKS、
錚々たるバレリーナの面々が並ぶ中、一番上に書かれているのは、我が新潟市が誇る金森穣氏。noismの公演には欠かさず通っていたと恩田氏はインタビューに答えている。クラシックとコンテンポラリーダンス、ダンスの中でのコンテの位置など、勉強になりました…。

noismファンはもちろん、読んで損はしないと思う。

絶対絶対映像化は無理と思っていた(筆者もそう言ってた)『蜜蜂と遠雷』が、あんなに!見事に映画化されたんだから、きっと今作もいつの日か劇場で観る日が来るのだろうな。楽しみにしています。

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ところで何刷りまで続くか分からないけど、初版では一部が透明になったプラ製のしおりがついていて、そこを本文の気に入った文章・2〜3行の上に重ねて、写真を撮り、 #springわたしの推し文 というタグをつけて写真を投稿することで、他の読者がどこにぐっときたかが分かる、という素晴らしい販促企画が実施されてる。而してこのしおりも…無くしてます。悲しい。

でもこれ、大きなネタバレ無しに抜粋でその魅力が伝わる、めっちゃ良企画なので、これからメジャーになって欲しい!版権フリーでお願いします。

泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』感想

NHK『あたらしいテレビ』で吉田恵里香さんが推していた、泥ノ田犬彦『君と宇宙を歩くために』(アフタヌーンコミックス)既刊分読了。

【あらすじ】
勉強もバイトも何故かうまくいかない、どこか生きづらさを抱えているヤンキーの小林。そこに変わりモノで生真面目な転校生・宇野が現れる。彼も様々に生きづらさを抱えているが、メモ帳に対処法を書いて持ち歩いていた。彼のメソッドの凄さに気付き尊敬していく小林。2人は次第に仲良くなり、一緒に天文部へ入部することになる。

【感想】
すごく好き。この気持ち良さは『ヤンキー君と白杖ガール』に似ている。「誠実なヤンキーの魅力」か。いや、相手役となる転校生・宇野と白杖ガール・赤座ユキコとの共通点もあるような。この組合せ、今後もいけるんじゃね?

とかそんな簡単なもんじゃなくて、両作品に共通しているのは徹底した当事者目線と取材の深さ、エピソードへの落とし込みの巧さ。「ちょっとこれ、おかしくない?」て所がない。ひっかかりがないんだよね。あと本当にイヤな人が出てこない。

ちなみに主役の2人、明らかに発達障害の傾向がある。ADHDやひょっとしたらLDも。ではなぜこういった名称が出てこないかと言うと、これも直接の明言ではないけど「舞台が平成だから」と作者が1巻あとがきにやんわりと書いていた。あの頃、世の中で「発達障害」とその詳細がどれだけ認知されてたかということだと思う。なるほど。

確かにこの10年で認知度は大きく変わったし、書籍やエンタメも多く世に出て来た。おかげで我が家もすごく助かった部分がある。
このマンガで救われる人もきっと多いだろう。

「このマンガがすごい!オトコ編1位」他いくつも賞をとっているのも嬉しい。多分もうドラマ化なんかも動いているんだろうけど、頼むよ…
色恋沙汰とか変なアレンジしないでね。ちゃんと、お願いしますよ。

『ヤンキー君と白杖ガール』のドラマ化は本当に、本当に素晴らしかった!主演は去年のドラマ女王だった杉咲花。

ちなみに『ヤンキー君…』のドラマが放映された2021年を過去記事で振り返ると…すごいなぁ。
大豆田とわ子、コントがはじまる、おかえりモネ、ヤンキー君(杉咲)、今ここにある危機とぼくの高感度、おちょやん(杉咲)、秘密の森…
当時もそう思ってたけど、あとから見ても改めて、とんでもない年だったんだ。

さて2025年、どんな年になるでしょうか。


我が家の漫画コーナー

倉本聰『破れ星、燃えた』感想

倉本聰『破れ星、燃えた』(幻冬舎)読了。
作者の自伝で脚本家として仕事を始める60年代から現代までを描く。
少年時代からその歳までは前作『破れ星、流れた』(未読)に。

営業的なアレで、帯には
「今でも、黒板五郎の幻影を見かけることがある。」
こんなコピーが出されているが、『北の国から』については後半少し割かれているだけ。

メインはなんといっても60年〜70年代の、脚本家としてめきめきと頭角を現す時代。
高倉健、北島三郎、笠智衆、石原裕次郎らといった錚々たる面々の素顔。TV局の名物P、芸能プロダクションの伝説的人物の描写。圧倒的。圧倒的過ぎて劇的過ぎて、好き嫌いはあるかも知れない。

自分は学生時代から倉本氏の書籍をぽつぽつ読み続けているので、北の国からの話はおよそ読んでいるし、他のエピソードについてはいくつかはきっと既読だったりするのかもしれない。だけど改めてこうやって一冊にまとめて読み直すのは感慨深い。あと倉本聰関連書籍はいつも北書店にあって、佐藤店長と彼の話をすることもあり、最近は北書店で買ってるかも。

倉本氏の運命を変えたNHKとの大げんか、その後のフジテレビとのやり取り、今も続く日曜劇場の当時の話、『海に眠るダイヤモンド』の記憶も新しい炭鉱閉山の話、どれもこれも面白く、読んだばかりの岡室美奈子『テレビドラマは時代を映す』と横糸が通る感じもあって…

テレビドラマの話が読みたい人、倉本聰のファンにはもちろんオススメ。

この2冊を読んでいると観たいドラマがいくつも出て来て、そのいくつかは配信で観られるのがなんとも嬉しい。が、あくまでフジ系を除いてだ。なんかFODのみ配信って文化の断絶じゃないかとさえ思う。

『君は海を見たか』とか『ライスカレー』とか、今見てぇーーーー!

映画『ソウルの春』感想

『ソウルの春』をAmazonプライムで。
監督:キム・ソンス

【あらすじ】
1979年に韓国で起きた「12・12粛軍クーデター」の経緯を初めて映画化。
役名は少し変えているが、殆どの出演者には実在のモデルがいる。

【感想】
昨年観ていたらベスト1にしていたと思う。
圧倒的なエンターテインメントにして、ラストには忘れられない悔しさを味わう。

このクーデターが成功し、その後10年以上も軍事独裁政権が続くという歴史を知りながら尚、こんなにハラハラさせられるなんて。

クーデター当日の両勢力の駆け引き、秒単位の情報戦のやり取りは言葉通り「息をするのを忘れる」すさまじい緊迫感。単なるアクション映画としてもトップクラスの面白さ。
(大好きな『クライマーズ・ハイ』のクライマックスを思い出す。ああゆうプロ対プロのやり取りが好きな人に全オススメ)

全斗煥に対抗する、実直で正義感の固まりのような首都警備司令官チャン・テワン(役名イ・テシン)を、『監視者たち』の最高悪役にしてトム・クルーズ似のチョン・ウソンが演じる。
映画のあらすじだけ読むとキツい内容に思ってしまうが、劇中の爽快カタルシスは彼が担当してくれるから大丈夫!

このチョン・ウソンと悪役の権化のような全斗煥(役名チョン・ドゥグァン)を演じる名優ファン・ジョンミンのおかげで、ただでさえ見事な脚本・演出が超1級のアクションエンタメになってる。

「12・12クーデター」がその後2023年まで映画化されなかった理由として、首謀者の何人もがその後も韓国社会の重要な位置に居たからではないかと監督は語っている。彼は高3の時にこの事件を実体験し、翌日の新聞はじめその後の事件隠匿を肌で感じたことで映画化を決意したそうだ。

自分の年齢に当てはめてみると
「12・12」とその後の全斗煥による戒厳令〜光州事件(タクシー運転手)が起きた1979-80年、自分は10歳。
ヤマトやガンダムに夢中になっていた頃。

その後長く続いた軍事独裁政権が終わるきっかけとなる『1987、ある闘いの真実』の年に、高校2年生。
少女マンガオタク期。世は夕ニャンとおニャン子ととんねるずの時代。

「12・12」の罪を問われ全斗煥と盧泰愚が拘束・起訴され一応の解決を見る1995年に、自分は大学を卒業。
阪神大震災とオウム事件、Windows95、金融機関の財政破綻、バブルの完全崩壊。

自分が韓国で生まれ育っていたら。このあいだ起きたばかりの戒厳令の夜に、昨日の大統領拘束失敗に、何を思い、どう行動していたのだろうか。
 
このような作品が観られることが素直に嬉しくてありがたい。しかし観るのが遅すぎた。尻込みしてた。

傑作揃いの大人気韓国近代史シリーズ。この先もずっと語られる1作になるだろう。

我が家の正月


我が家の正月は、極力家事をやらないことにしてる。

奥さんが駅伝マニアということもあるのだが…。おせちや正月料理どころか、ご飯はほぼ作らない。各自で勝手に作って食べる。だからメニューはバラバラで、うどんやカップヌードルやレトルトカレーばっかりってこともある。

今年はご飯や餅のストックが多目にあって、年末に家の余り物を全部ぶち込んだ汁(結果的に雑煮っぽくなった)を大鍋一杯作ったので、ちょっとだけ正月ぽかった。今後これを我が家の雑煮としよう。(おにぎり用の冷凍焼き鮭を入れたのが新潟ぽい)

加えて今年は長女が受験のためずっと勉強オンリー。一層バラバラ。ちなみに自分は元旦に配信映画を3本観た。(劇場で今観たいのをやっていなかったのが残念)

『チャレンジャーズ』『ソウルの春』『プロジェクト・パワー』どれも面白くてお腹いっぱい。

2日のTBS『スロウトレイン』、ロケーションは勿論テーマ的にも海街diaryに近い作品。静かな中に野木さんらしいメッセージを感じられて良かった。しかし劇伴がちょっと好みじゃなかったな…。あとこの内容で単発ドラマだと土井監督が適任なのかしら、とか。(連ドラでこのコンビは素晴らしかった)

古舘さんとリリーフランキーのBarシーンはもはやユニバース。笑える。他にも今観てる『ライオンの隠れ家』とたまに世界がごっちゃになってしまい困った。多部ちゃんの韓国人の彼氏、裏切らなくて良かった。
何にせよ、オリジナル脚本でこれだけの作品を正月にぶつけてくれることの大切さ!ありがとうございます!

2日のお昼は毎年マクドナルドに行くことにしている。今日はベーコンレタスバーガーをチョイス。思ったよりお店は空いてた。明日はキムチチゲが食べたくなったので俺がつくる予定。

11月から続く寝違いのような首の痛みはずっと相変わらずで慢性化しつつあり、ここから来る頭痛はもう毎日のことで、いいかげん慣れてしまった。

こんな風に少しずつ不調が日常化して、重ね着のように増えていって…。そりゃ動作も口調もゆっくりになりますよ。元気かどうとかというより、怖くて早く動けないんだもん。また1歩、天国への階段を上りました。

お休みくらい毎日お酒が呑みたくても、頭痛のせいで遠慮がち。東西いろいろ通院して試したが、原因も治癒もさっぱりだ。共テ終わる頃までに、何かの運とかきっかけで直ってたりするといいなぁ。

NHK『あたらしいテレビ』感想

元旦恒例のNHK『あたらしいテレビ』。

NHK、民放、映画、配信、出版、ネット界隈に関わらずさまざまな業界人を集め2024年のコンテンツを1時間に渡って振り返る番組。

今年は吉田恵里香、山中瑤子監督が入っておお〜と思ったが、内容的には去年おととしのような、すげー!というとこまではいかなかったかな。でも面白いから興味ある方はプラスでやっている間にぜひ。

YouTube界隈の話はまったく知らない世界ばかりで、その人の肩書きや業界がどうのということでもなく、もう皆が知ってる共通の話題なんてあり得ないんだ、ということが改めて分かる番組だった。かろうじてテレビが少し繋ぎ止めている、という位で。

だから自分にとってアトロクがどんなに貴重なのかってことなんだよな…。

●NHK『舟を編む』の脚本家、蛭田直美さんが2025推しに選ばれていたのが嬉しかった。『海に眠るダイヤモンド』でエライザさんいいじゃん、とちょっとでも思った人には『舟を編む』絶対観て欲しいなぁ。2024ドラマのベスト。エライザさんが凄まじく、良いです。

●フジテレビの田中良樹D(『新しいカギ』など)が言ってた「テレビは5〜6年前にあせって上の層(年輩)ばかりを狙っていた時期があって、今はそこからリカバっている最中」的なこと言っててへぇー。

●高石あかりちゃんの2024レコメンドのラインナップがなんか良かった。XGいいよね…

●インティマシーコーディネーターについての高嶋政伸コラムを挙げたドラマ批評家の方がいて、かなりの時間を割いてICについて当事者が説明していた。確かにそうで、こういうNHKの番組で挙げてもらったのは絶対良かったのだけど、あのコラムはあれであまりにもメンタル面をすべてICに?という誤解も生みそうで、IC入れればOKって話でもないというまた次のステップの話があって、とかあるよね。あとふてほどのあの回の酷さに言及はなく…当たり前か。そう言えばふてほどを挙げている人はいなかったな。

●吉田恵里香さんの推しマンガ『君と宇宙をあるくために』買うぞ。

2024年に見た映画ベスト

2024年に観た映画&ドラマのベスト。

過去の年間ベスト記事は▼
歴代年間ベスト映画の記事

2024年に観た映画は50本、うち劇場鑑賞は9本。
多くはないがまぁそこそこという数。コロナ前は劇場鑑賞がだいたい20本以上あったらしい。今年は特に娘達の送迎が入って、ナイト上映に行きにくくなったのが大きな理由だろう。

映画は、この1本!という今年を代表するものは思い当たらないけど、傑作はやっぱり何本もあった。そもそも「観ていない話題作が多い」ことが結構気になっていて、それらを観ていたらまた結果はかなり変わるのかも。

劇場体験のナンバーワンは『侍タイムスリッパ–』。劇場で観る意味のある特別な作品で、これを逃さなかったのが今年一番を自分を褒めてやりたい案件。
たった1館上映で始まった自主制作映画が、評判が評判を呼びどんどん全国に広がっていったサクセスストーリーはカメ止めを思い出す。いやあの時以上の痛快さ。ZINEのようなパンフも素晴らしい。日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞の3冠、主演男優賞も本当に嬉しい。おめでとうございます!

『DUNE2』はいつものSFびいきは勿論だけど、やっぱりIMAXが新潟にできたことが大きい。
『帰れない山』は原作も素晴らしかった。自分の幼少期の思い出や出自に関わるような「しっくり感」というか生理的な相性が妙に良かった作品。

感想アップが間に合わなかったのは『夜明けのすべて』『ホールドオーバーズ』。どちらもめちゃくちゃ好きな映画。こんなに優しい(それぞれ意味は違うが)映画が2本もあった2024年は素晴らしいと思える。

ドラマはまー傑作揃い!『虎に翼』『舟を編む』『アンメット』が同じ年に!

ここに入ってない作品含め全体を通してNHKが強い印象。

待望の野木亜紀子新作『海に眠るダイヤモンド』はこれまでの作品とは舞台が大きく変わった大作で、まだ消化しきれないくらい。『JIN』や『この世界の片隅に』もそうだけど、(東芝)日曜劇場が今でも地デジドラマにおける役割をしっかりと果たしていることがありがたいし誇らしい。

今晩は年末恒例のお楽しみ、映画部忘年会。良き映画もそうだけど、これはアカンかった…というSNSにはあまり載せられない話ができるのも楽しみ。

多分鑑賞記録でもメモし忘れているのが何作かはあるんだろうな。気付いたら直します。

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今年、インスタのハッシュタグのフォローができなくなった仕様変更のタイミングで、ハッシュタグごとに過去記事を全部チェックできるアプリ「4K Stogram」が使えなくなった。これを使って過去記事をまとめたりnoteに移行していたりしたのが、今後はできなくなる。同機能の代替アプリが見つかる確率は低い。今後インスタの過去記事は検索もチェックも引用もできない、アーカイブとすら呼べないデータの堆積、になってしまいそう。インスタとのおつき合いも今後どうなるのか。

年末恒例の映画部呑み会(2024末)

恒例の映画部忘年会。

今年はぱっとした1本が無かったな〜、というのは共通意見だった。
『侍タイムスリッパー』を劇場で観られた喜びを存分に話せて、すごくスッキリ。

こんな会をいつまでも続けていられることが、私の望みです。

話したこと、覚えてる限りメモ。

●侍タイムスリッパーを劇場で観れたことの喜び。賞取れてよかったね

●PERFECT DAYSについてのアレコレも話せて盛り上がってすっきり

●インターステラーIMAXを逃したのがマジで悔しい

●旧作を劇場で観ることの新鮮味、IMAXが出来て嬉しい。ノーラン作品をIMAXでどんどんリバイバルして欲しい

●去年のTARとか前のTENETとか、なんかめっちゃ話したくなる作品が今年はなかった。オッペンハイマーは、ちょっと違うね…

●わたくしどもは。の話。つなぎが気になる映画は初めてだった

●ラストマイル、間違いなく面白い作品なんだけど、映画か?映画であるべきか?というのが皆共通してた

●藤井監督、やっぱ合わない…

●落下の解剖学は犬と子供がめっちゃ良かった

●ブルーピリオドは始終泣いてる位に良かった。

●フュリオサは勿論良かったけど、なんか凄く話したくなる、って作品じゃなかったかな。

●ドラマは傑作が多かった!直近では全員が『海に眠るダイヤモンド』を観ていたのが嬉しい。あと皆NHKオンデマンドに入ったらいいのに。

■他のひとが観てなかった中でオススメ
『ザ・メニュー』◀アニャ!
『シビル・ウォー』◀赤メガネの話をしたかった!
『モキシー』◀Netflixオリジナルの学園もの。zineの話でもある
『セーヌ川の水面の下に』◀バカサメ映画を観たい時に
『雪山の絆』◀原作とセットでおすすめ
『夜明けのすべて』◀優しい社会とはこれだ

■おつまみはお馴染み菜の花キッチンさんのオードブル。今回は「揚げ春雨のタカキビソース」が衝撃でした!



『ぷらすと』がもたらしたもの

朝COBO活。7時のOPENあたりには誰一人いなかった。

今年の映画ベストをまとめはじめている。感想を書いていないものも何作品かあるけど、ちょっと年内にアップは無理そう。『ホールドーバーズ』良かったなぁ。Podcast『映画雑談』のホールドオーバーズ回は、虎に翼評も結構入ってて俺得だった。

北書店で先日買った別冊文藝『クリストファー・ノーラン』。
添野知生さんが『インターステラー』について書いていた。元々弟のジョナサンがスピルバーグに当て書きした脚本で、それにクリストファーが何を足したか。それは何故か。自分の娘のことがかなり関係しているみたい。ジョナサンの妻リサ・ジョイが女性目線で『ウエストワールド』などの傑作をものしている中、勿論分かっててあえて男性目線でSFを描き続けていること、その対比だとか。ほんとそうね。

『ぷらすと』で知って、松崎健夫さんと共にファンになったSF映画評論家の添野さん(岸政彦さん似)、近年は体調不良でYouTube番組にも出られていないので心配なんだけど、どこを見ても近況が分からない。どうか復活されますように。

『ぷらすと』が俺にもたらした影響も、終了した影響も、とっても大きい。もう何年も前のことなのに、未だにショックだ。
今終わられると恐らく立ち直れないくらいダメージを喰らうのは間違いなく『after6junction』で、終わらないように願掛けでステッカーをデザインしている。出来たら車の後部ウィンドウに貼ります。見たことないアトロクステッカーの貼ってあるVOLVO v50を見かけたら、それはワタクシ。

映画『ホールドオーバーズ』素晴らしかった。

『ホールドオーバーズ』をAmazonプライムで。
監督:アレクサンダー・ペイン(『ダウンサイズ』)

【あらすじ】
1970年代のマサチューセッツ州にある全寮制の寄宿学校。生真面目で皮肉屋で学生や同僚からも嫌われている教師ポールは、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役を務めることに。そんなポールと、母親が再婚したために休暇の間も寄宿舎に居残ることになった学生アンガス、寄宿舎の食堂の料理長として学生たちの面倒を見る一方で、自分の息子をベトナム戦争で亡くしたメアリーという、それぞれ立場も異なり、一見すると共通点のない3人が、2週間のクリスマス休暇を疑似家族のように過ごすことになる。
(映画ドットコム)

【感想】

これぞ人間賛歌。クリスマスには特にぴったり。映画であたたかい気持ちになりたい人いたら是非。70年代のファッションやカルチャーも良き!

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みはじめて数十分のころ、やばい。これはNot for meなのでは…と思う位に、主演の3人誰もが好きになれなかった。

主演の頑固なポール先生(体臭・偏見の持ち主)、不機嫌な料理長のメアリー、お坊ちゃまでがきんちょのアンガス。

このさっぱり魅力を感じられない3人が一緒に過ごす、気まずくて暗い冬の光景を、延々見せられるのかと。しかし。

観終わる頃には、3人のことが大好きになっている、どころか「この映画サイコーじゃね?」に変わっている。

この落差。

断っておくけど、別に途中ですごい事件が起こる訳でもない。場所は変わったり、他の人物が絡んだりはしてくるけど。

何が起こるかと言えば、静かに、ゆっくりと、3人がどういう人なのかが分かっていく。それだけ。

何故頑固なのか、体臭の理由は、何故クリスマスに急に寄宿舎に残ることになったのか。どうして不機嫌なのか。すべて、背景を知ることで、その人の人生の片鱗を知っただけで、印象が変わっていく。劇中のお互いの理解も深まる。

そう、人は「知る」ことだけで全然違うんだよなぁ。という今さらのことを思い知らされる。早とちりせず、第一印象で決めつけない大切さを自分に言い聞かせた。

もちろんエンタメの世界はそれだけでは不十分。ただ背景を知るエピソードをゆっくり織り込んでいくだけで「素晴らしい作品」になることはない。入念な脚本と、セリフで説明しない演出、滲み出る演技力、その他諸々がすべて合致するという奇跡があってこそ、こんな傑作が生まれうるんだ。

前の映画会でも話していた「駄作になったかも知れない分岐点」のこと。当作はそんなプロットばかりだ。よくこんなに良い作品になったものだと思う。

主人公3人はどれもめちゃくちゃ素晴らしい俳優だと思うのだが、学生のアンガスはなんと、ロケ地になった学校の演劇部の生徒がオーディションで選ばれたそうだ。まだ素人。信じられない。全然信じられない。

ずっと忘れられない、大切な作品になりました。

『映像研には手を出すな!』9巻。すごい。

大童澄瞳『映像研には手を出すな!』最新9巻。

なんつの。このネタで、このパワーダウンの無さ。いやー楽しい。最高です。

映像研の1巻が出た時は本当に衝撃で、「これだけ自分達(60〜70年代生)の好みを知り尽くしているのだから間違いなく同年代、若くても40年代だろう。なんて遅咲き。でもめっちゃウェルカム。出てきてくれてありがとう!!(編集さんありがとう!)」というような感想を書いていたことを思い出す。

大童澄瞳さんが90年代生まれだって聞いた時はまず信じなかったし、なんか間違って検索しちゃったんだろうなって思った位だもの。嘘でしょって。この若さでこの内容?
まじかよ…。てなったんだよね。

あれからもう7年くらいか。まさかアニメ制作の現代を憂うこの作品がアニメになったり実写になったりするなんて想像しようもなかった。
そんなこと関係なく原作が面白つづけるのが最高です。生きてく糧のひとつ。

岡室美奈子『テレビドラマは時代を映す』

岡室美奈子『テレビドラマは時代を映す』(ハヤカワ新書)読了。

著者は早稲田大学教授、テレビドラマ論/現代演劇論が専門。60年代頃から現代までをいくつかに区切り、それぞれの時代のテレビドラマが、どのように世相を盛り込んできたかを描く、毎日新聞連載のコラムを新書化。

1コマが2P程度と短く読みやすい。またドラマに限らず時にバラエティ、ノンフィクション、紅白などの音楽番組までも取り上げていて、ドラマを語るというよりも「テレビを通じてその時々を語っていく時事エッセイ」の気分。

大まかな時代背景もそうだが、忘れかけていた個々の事件やムーブメントについてドラマを通して思い出すことができるのが楽しい。残念ながら『虎に翼』の直前までなのだが、かの作品が描いたジェンダーギャップやマイノリティ差別の歴史、見え方の変化についても本書で追いかけることができる。
(出版後に岡室さんはあちこちのラジオでとらつばを激推ししてた。入れられなかったのは残念だったでしょうね…)

現代で自分などが追いかける野木亜紀子、渡辺あや、坂元裕二、安達奈緒子などなどの作家は勿論、自分が産まれたころからの作家論・プロデューサー論をざざーっと読めるのもすごい。この後読んだ倉本聰の自伝もちょうど60年代から現代までのテレビが舞台になっており、御大が一方的にテレビドラマ界の衰退を嘆くのと一緒に読めたのは笑ラッキーだった。あと『海に眠るダイヤモンド』が終わったばかりだけど、本書でも倉本の著作でも、炭鉱の事故や閉山という事実が世間的にどれだけ大きなニュースだったかが、見て取れる。あと東芝日曜劇場(現『日曜劇場』)の偉大さとか。こういう風に立体的に繋がるの、嬉しい。

ラジオでいつもお聞きしている岡室先生の著作をやっと読みました。これからも楽しみにしてます!

映画『ブルーピリオド』は「こうなっちゃったらOUT」の道を一つも踏み外さなかった傑作

『ブルーピリオド』実写映画版をAmazonレンタルで。
監督は萩原健太郎(『サヨナラまでの30分』)
原作は連載開始当時からのファン。

【あらすじ】
高校生の矢口八虎は成績優秀で周囲からの人望も厚いが、空気を読んで生きる毎日に物足りなさを感じていた。苦手な美術の授業で「私の好きな風景」という課題を出された彼は、悩んだ末に、一番好きな「明け方の青い渋谷」を描いてみる。絵を通じて初めて本当の自分をさらけ出せたような気がした八虎は、美術に興味を抱くようになり、またたく間にのめりこんでいく。そして、国内最難関の美術大学への受験を決意するが……。(映画.com)

【感想】
大傑作の実写化だと思います。
原作は大好きだけど、その魅力を実写化によって更に引き出していると思う。同じ座組で続編を作ってほしい。
ほとんどケチのつけようがない位。
原作好きで躊躇しているところあったけど、原作未読の @9falcon9 が良かったと言ってたおかげで、遅まきながら観ることができた。ありがとう〜!

キャストの素晴らしさ

眞栄田郷敦を使ったのがまず大勝利。正解のない、自分自身の中に奥深く潜りこむことだけで腕を磨いていく世界。その深みを、暗部を、彼の目つきや身体の動きからしみじみと感じる。すごい説得力。(メインキャストは相当絵の特訓したらしいし、エキストラは皆美大生か予備校生)ちゃんと「暗い」映画になってる。

最近あまりにひっぱりだこでやや「またか…」感のある薬師丸ひろ子。本作では冒頭からその説得力で泣かせる。一瞬で美大受験の世界に入り込めたのは、彼女の力がでかい。

主人公が絵画にのめりこむきっかけになる森先輩(桜田ひより)さんの、間のかんじ。あーこういう人いそう。見事。

一番実写化が難しいと思ってて(実写化を怪しんでいた要因でもある)主人公の幼馴染みで女装の男子、ユカちゃん(高橋文哉)も見事にハマってた。これは、連載当時から時間が経って、高校で女装の男子という存在に、当時ほど違和感がなくなったこともあるかもね。そういう感覚の移り変わりって早い。よくもまぁこんな演技ができたもんだ。
世田介くん(板垣李光人)も原作そのまんま。

新潟地元パイセンのあの有名な美術家さんも先生役で一瞬出ます笑

「本物」を使う凄み

原作マンガでは、実際に美大生や生徒や作家が描いた絵画を作中人物の作品として使っていて、だから説得力があったのだけど、これが実写化になって更に凄みを増しているのが凄い。こうゆう「作中作品」のリアリティってめちゃくちゃ大事で、ここで「薄目で観ないと耐えられん!」て作品は山ほどある訳で。
(原作ファンだと「あの絵じゃん…泣」ってなるよ。同じ作家にもう一度描いてもらったそうです)

石膏デッサンが並んで実力の違いが分かるところなんかも凄いし、武蔵美や藝大その他がおかしな変名を使わずにすべてそのまま描かれているのって、入り込む要素としてめちゃくちゃ大事だと思う。

美術もすばらしいし、衣装や部屋や小道具のルック、こういうところで「ひっかからない」つまり「気にならない」ことが傑作の条件だし、それって実は奇跡みたいなことだと思う。

映像の美しさと劇伴

カメラアングルが、この映画の主題に合わせ全体に絵画的。グレーディング美しい!自分はもう「原作無しのオリジナル映画」として今作を観ることはできないんだけど、普通にすごいクオリティの邦画じゃね?と思う。

劇伴。YOSASOBIの『群青』使わないの?って予告時点で思ったけど、観ると全然納得。この映画は、もっと重い。

原作の良さがそのまま出てる

男女色恋沙汰がないこと/進行のために悪者を安易に出してこない/など、原作の良さがちゃんとそのまま維持されている。
(映画向けにちょっと色恋を…なんてことしたらもうOUT。そんな失敗例も山ほどある)

苦言

少しテンポがゆっくりなので、これは映画館向きの映画だと思う。

幼馴染みユカちゃんとの関係や、彼の苦悩については、もう少し掘り下げられても…と思う。原作ファンは脳内補完であまり問題はないのだけど。

これから

原作者は今作を受験マンガに留まらず、藝大マンガ、その後のプロの世界も描いていくつもりらしい。本連載は今、藝大生活からプロの片鱗が見えているところ。
繰り返すが、同じ座組で藝大編・プロ編が観られたら自分は本当に嬉しいです。

友人とのやり取りとか、お母さんをスケッチするシーンとか、名シーンが山ほどありました。

正直冒頭から、クオリティの高さが嬉しくてずっと涙ぐんでいたし、何なら半分位涙ぐんで観ていたような気もする。おれはちょっと極端。

山ほどあった「こうなっちゃったらOUT」の道を一つも踏み外さす、実写ならではの魅力を加えた、原作への深い理解と愛情を感じる、とっても良い作品でした。原作者もきっと嬉しいんじゃないかな。

『クィア・アイ』のありがたみ

今は『クィア・アイ』が存在するのが当たり前になった世界線なのだけど…。

この番組がどれだけ衝撃で、どれだけ助けてもらったかを思い出しました。メンバー1人が入れ替わって(なんと!)season9が始まったこと。入れ替わってむしろ盛り上がってる、という話が「もちよりRadio」で語られていました。おお!楽しみ!

クィア・アイを観はじめた時、間違いなく世界が変わったことを覚えています。あの頃は「いつも心にファヴ5を!」って言ってたよね。

最近元気がない、辛いっていうあなた。未体験だったらぜひ。ドラマが「○○に効く」なんて、人によりあまりに違うので普通は言えないけど、『クィア・アイ』は言えるんじゃないかな。

人を褒めることの力強さ、人の本来の魅力を見つけ指摘してあげることの大切さを思います。

あと我が家では、家族全員が盛り上がって観ることのできる、稀有なバラエティ番組だな。

「パーム・ナイト」から10年。

なにかで急に気が滅入ってしまっていたのだけど、ぽんっと久しぶりの友人からLINEが入り、「ちょうど10年前の今日、あの日だったよ」と教えてくれた。

池袋での「パーム・ナイト」。

獸木野生・旧伸たまき氏により40年以上続いているコミックを熱く語ろう、という回。同年に初めて開催された新書館の公式イベントで知り合った数人で主催したのだった。この年の出会いは本当になんというか一生の宝物だ。

獸木野生『パーム』オフ会「パーム・ナイト」開催しました

その後も3月のライオンの映画を一緒に見る会をやったり。

『3月のライオン』映画をぶっ通しで観る「ライオン・ナイト」を開催


上京した時に呑んだのも本当楽しかった。いろいろ思い出してなんか人生救われた感。

その後、今年坂口恭平さんを呼んでくれて一緒にイベントのアレコレをやってた彼女が2階のtetoteさんの企画展ついでに赤ちゃんと寄ってくれて、共通の知り合いのことや、自分の投稿きっかけに『虎に翼』を観はじめてた話とかしてくれたりして。嬉しいなぁ。そっかー。坂口さんのトークは6月だったんだ!と思ったり。

自分は「あっという間に時が過ぎる」感じが滅多になくて、いつも毎年「今年の1月のことは遥か昔のようだ」と思ってしまう。6月の坂口恭平さんも2年前くらいに思える。パーム・ナイト、まだ10年前なのか。記憶力のないせいでこんな感じなのかしら。

人に会うことで自分はなんとかやっていける。ほんとは毎日でも呑みに行きたいけど笑、娘の受験やら家庭の事情でそうもいかない。せめてお茶しに寄ってってください。

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自分の書いた昔のPALM関係の記事を読み直していた。獸木野生氏はこう書いている。

さて、人間同士がきちんと礼を交わして別れることは意外にまれです。特に作家には決まった退職年齢もなく、読者に改まって感謝を述べる機会もそうありません。

わたしは長い物語を書いているので、話が終わるときには、ずっと読んでくれた人にきちんとお礼を言いたいものだと常々思ってきました。そして今その時が来たようです。

会いたい人、御礼を言いたい人は、明日にでも会えない人になるかも知れない。会いたい人には今会っておくべきだ。自分に言い聞かせるために。

映画『シビル・ウォー』感想

早くもAmazonプライム入りした話題作『シビル・ウォー』鑑賞。
監督はアレックス・ガーランド(『エクス・マキナ』)

【あらすじ】
連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。就任3期目に突入した権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。戦場カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストは、14カ月にわたって一度も取材を受けていないという大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。彼らは戦場と化した道を進むなかで、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていく。

【感想】
近未来のアメリカ内戦の様子、と聞くと何やら政治色強めな事前印象だったが、実際は男女4人のジャーナリストが内戦中にホワイトハウスに向かう数日間を追うディストピア・ロードムービー。実に俺好みな内容。あっという間に終わる。109分。

主役のベテランカメラマン:リーを演じるのが大好きなキルステン・ダンスト(数々の名演が蘇る)。彼女と新人カメラマンのジェシーとの関係だけで最後まで持つ。

国内は内戦状態で敵も味方も中立も良く分からない中、大統領インタビューを目指し、男女4人が車に乗り込みD.C.を目指す。ゾンビものっぽいワクワク感もあり、ユルいシーンと緊張するシーンのバランスがとても良くできている。映画上手すぎ!

緊張のクライマックスは最後ではなく、途中で、大量の死体を始末している途中に彼らを捕まえる「赤メガネ」ジェシー・プレモンスとのシーンだ。ライフルを構え、いつ気まぐれで殺されるか分からないおかしな彼との問答。舞台はまったくそこいらにあるアメリカの田舎町。しかし映画館で観ていたら俺、小便漏らしていたかも、というくらいのヤバさ。解決までの顛末も本当に凄くて。

忘れられない名シーンがいくつもあるデイモン似のジェシー・プレモンスだが、今作の、この1シーンだけでも2024年の映画史に残ると思う。
実はキルステン・ダンストの旦那。元々の役者が出演できなくなった所に、ダンストが推薦したのだとか。

ベテランでもう走ることもままならないがこのツアーに同行しているスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン演じるベテラン記者サミーがまたいい。佇まいだけで100点。

内戦の背景についてもいろいろ考察したい内容はテンコ盛りだし、この後に聞く『映画雑談』の再聴をめっちゃ楽しみにしている…のだが、そんなの全部すっ飛ばしても、純粋にアクション映画として、出来が良すぎる。

12月にして来たね。すごい奴。アマプラですよ。ぜひ。

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まともに感想が書けてないのは重々承知だが、年末に映画部会が決まってめちゃ嬉しいので、とにかくアップしていきたい。他にも書いてない作品が最近たまってた…。
『夜明けのすべて』『ツイスターズ』『翼の生えた虎』『ザ・メニュー』とか。

舟之川聖子『「頭髪検査」廃止に立ち上がったいち保護者から見えた学校のこと』感想

舟之川聖子『「頭髪検査」廃止に立ち上がったいち保護者から見えた学校のこと』(ひととび〜人と美の表現活動研究室)読了。

今年のふふふのzineで買った『B面の歌を聞け vol.4 〜ことばへの扉を開いてくれたもの」に掲載されていた作者のインタビューを読んだのがきっかけ。

子供の中学校で行われていた頭髪検査に対して疑問を抱き、それを止めるために活動をはじめ、その過程で「権力が使うことば」に気付き、それに対抗する手段を考えたという、長くないインタビューだった。最後に紹介されていたこのzineを、すぐに注文した。

自分も今高3と中2の娘がいて、PTAの委員などの経験もある。いずれもすべて公立学校だが、特に小中学校において、自分が学生だった40年前と、まったく、そのまま!同じ憤りを、そのまま親になっても抱くとは思わなかった。

自分が接してきた学校では、この頭髪検査のような「立ち上がらずにはいられない」事態はなかったのが幸いだが、ところどころであり得ないようなことはあったし、都度必要な場合は、書面や口頭で相談(という体の抗議)をしてきた。その結果少しでも変わったこともあるけども、お決まりの「言葉」で、なかったことにされたケースが殆どだったように思う。

このzineは、そうして感じた、自分の力不足ゆえの残念な気持ちを振り返りつつ、同士は確実にいるんだという勇気と、そして具体的・実践的な戦術・ノウハウを与えてくれる。

未だこの国の学校に根深く存在している「子供は放っておくとけしからんもの。その子供を優れた理想像へと先生が引き上げていく」という物語。ケアでなく支配。おかしな校則の裏にあるこの空気、誰もが感じたことはないだろうか。軍隊でもない教育機関で何故このようなことが…と思うあの仕組みについて、徹底的に、気持ち良いばかりに舟之川氏 seikofunanok が言語化してくれる。

この気持ち良さをなんとか表現したいのだが文章力も語彙力も全く追いつかないので、すみませんが写真でいくつか引用させていただきます。

彼女の抗議活動が気持ち良い結末に終わった訳ではない。気持ち良いのは作者の言語化、抗議の過程とそのロジックであり、対する学校側の反応は…やはり見慣れているアレなのだ。あの構造から抜け出ることはない。

そのことは「はじめに」でまず書かれている。

これは、「対話して相手の状況を知ったことで、お互いに漠然と抱いていた不信や不満が解消された」という類いの話ではありません。残念ながら。

しかし作者は続ける。

この本で特定の学校や人物を料弾する意図はありません。それよりも、自分の家族や自分自身が理不尽な日に遭い、尊厳が損なわれたときに何ができるかを示したい。そして、このような人権侵害の行為を生み出す権力と差別の構造を誰が支えているのかを問いかけたいと思って書きました。これは学校だけで起こっていることではないとも思います。
この本が、苦しみの渦中にいる人、動きはじめた人を励ますものになれば幸いです。

自分は、日本の学校が持つこの権力維持構造が、子供に与える、ひいては自分達の未来に与える多大な影響を、心から憂慮する。

「こういうものだし、解決方法なんてないんだよ。日本人らしいよね。良い所だってあるし。仕方ない」
などとは、絶対に見過ごせないと思っている。

以前紹介した『怒りzine』と併せ「怒りすっきり系」として、大いにお薦めします。

『GALAC』12月号で虎に翼の記事を読む

テレビとラジオの批評誌『GALAC』12月号

初めて買った。編集発行は「NPO放送批評懇談会」。

たしか岡室美奈子さんのXで知った「朝ドラ『虎に翼』が開いた扉」特集が素晴らしい。全20P。

冒頭の座談会、脚本の吉田さん制作統括の尾崎さんまでは良く見るとしても、梛川善郎チーフ演出、石澤かおるPまで加わった4人はなかなか読めない。その後の寄稿も、どれも素晴らしかった。

そもそもの企画の発端と、その後尾崎さんがこの人達を座組として選んだ理由が、詳しく語られている。また、『家庭裁判所物語』という著作があるNHKの清水聡・解説主幹もキーマン。彼は「歴史司法」戦前戦後の司法を専門にした記者だが、これらの本はNHKの取材ではなく個人で時間をとって調べ上げ書いたそう。この清水氏が制作チームの一員として考証に入っている。NHKで脚本作業をしていた吉田さんが「普通は脚本家が直接会うことの少ない」考証の人とNHKの食堂で気軽に会えることの大切さを語っている。現場のこんな話、なかなか聞けない。清水さんは同誌別ページで考証の寄稿もされている。

『虎に翼』は現代の問題を盛り込み「今過ぎるのでは」という声も聞こえた中、それが単なる場所借りではなく、調査や検討により「昔もそうだった」という推測に至った話とか。

痺れたのは撮影のこと。
「今作はマスターショットがうまい。従来朝ドラのようにマルチカメラスイッチングでバンバン繋いでいくのではなく、アングルを決めてそこの中で芝居をするというショットが多用されている」そうで。

配信ドラマはもちろんNHKのドラマも軒並み映像のクオリティが上がっている中「朝ドラだから映像はそこそこで仕方ない」とは言えない。朝ドラにありがちな「小さなセットを写すためのワイドレンズでルーズな俯瞰」という画になった瞬間、途端に醒めてしまうから、できるだけ長い玉(レンズ)でひいて撮るようにしている。全部にピンが合うワイドレンズでどこを見たらよいか分からない映像よりも、1枚の画で役者の芝居と世界観が表現できるようにしたいと考えた。この撮り方は美術にも影響を及ぼしつつ、従来の朝ドラとは違う撮影が実現できた。

あの印象的なカットの数々は、こういう名監督の元で生まれたのだな。

前に「とらつばナイト」で書いた、女学校の先生のカット。これは脚本ではなく梛川演出によるものらしい。座談会でわざわざ取り上げられていて、感激。

同じ方向を向いたさまざまなスタッフがお互いに意見を出し合いそれを採り入れていく現場。
「撮影現場でも、年齢も性別も違うメンバーが、とりあえずこのシーンをどうするかについて相談するときだけは、誰もがフラットに想ったことをしゃべれるという空気を一番大事にしていました。それは『虎に翼』の芯にある憲法14条の精神みたいなことで、このドラマを撮っている以上、そうでなきゃいけないだろうと。」という梛川さんの言葉に痺れた。

仕事としてではなく、個人として、経験談を話したり議論が起こるような撮影現場だったそう。
「例えば女性の照明スタッフが、寅子が再婚して苗字をどうするかというエピソードの撮影時には、自分はどうするんだろうと真剣に考えてしまったという話をしてくれたり、彼女と伊藤沙莉が撮影後にそんな話をしていたり」

以前『虎に翼』は歴代朝ドラの中でNo.1とか、そういうベスト枠には嵌められない、別枠だ。ということを書いたけど、この特集を読んでやっと分かった気がする。

今作は、受け取った人がその中身を自分事にしてしまう力を持っている。別世界のドラマではなく自分のこととして語り出し、つないでいくバトンを確かに手渡したのだ。だからロスどころか、これから引き継いで、続けていく物語なのだと思う。

『虎に翼』以前との違いは、何が正しいのかわからなくなったとき、憲法第14条が、そしてこのドラマが、私たちを等しく照らし出す『灯台であり続けるということだ。
それは朝ドラの未来への1つの希望に違いない。
(批評の目「朝ドラの現在地と『虎に翼』が紡いだ未来」岡室美奈子 同誌より)

『侍タイムスリッパー』最高映画だ!

『侍タイムスリッパー』をTジョイ新潟万代で。
監督・脚本・撮影・照明・編集・車輌他:安田淳一

【あらすじ】
幕末の京都。長州藩士を討つために身を潜めていた会津藩士:高坂新左衛門は、斬り合いの際に落雷を受け、現在の時代劇撮影村にタイムスリップする。
町のポスターで江戸幕府が140年前に滅んだと知り一度は自死を考えるが、親切なお寺の人に助けられ元気を取り戻していく中、偶然TVで時代劇を観て大感動する高坂。「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩く。

【感想】
信頼してるネット知り合いの皆さんが激推ししている上に、タイムリープものとあっては見逃す訳にはいかぬ!やっと鑑賞。

ツッコミどころは色々あれど、そんなの忘れて笑った!泣いた!息を呑んだ!
(久しぶりに映画館で声をあげて笑った)
まー終わった後に拍手したくなる娯楽傑作映画でした。そして映画を扱った映画なので、劇場で観るのが断然向いてると思う。間に合って良かった…

主人公でタイムスリップする会津藩士:高坂を演じる山口馬木也氏がもう、すごい。顔ヂカラ最強。最初から最後まで本当にずっと、彼に夢中。最後の方では、(あれ?この俳優さん、有名な人だよね?名前なんだっけ?)と勘違いしてしまう位にハマってる。敵役の風見恭一郎:冨家ノリマサ氏もそう。

こんな風に、映画が終盤に行くにつれて
「この俳優さん、有名な人だよね。この落ち着きとか迫力とか。観た憶えあるもん」
と思ってしまうような勘違い(本当は初見)、今までなかった体験でした。

実際、知ってる俳優さんは皆無だったのだけど、皆好きになっちゃう。

照明も、時代劇ならこう!というカッキリライトでハマってるし、小学校の頃夕方の再放送で見てた暴れん坊とか水戸黄門の楽しさを思い出したな…。

あと殺陣ね。この話は「殺陣」を中心に廻る。

殺陣の先生役:峰嵐太郎は、初登場で、そこらにジーンズ姿で立っているだけでそれと分かる佇まい、姿勢。これ剣道やってた人なら共感してもらえると思うんだけど、刀の取扱いや姿勢ってごまかしがきかなくて。にわかで憶えた人は分かってしまう(と思う)。全編通し殺陣のリアリティがすごい。この先生役を巡るエピソードがまた泣けます。(エンドロールで献辞されている)

編集のテンポとか節々にツッコミ処や気になるところはあれど、見せ場になるとそれらを一気に忘れる演技と迫力。クライマックスはマジ劇場中で固唾を呑む様が伝わってきた。本当に斬り合いをしているのか?と思ってしまう。

高坂が会津藩の行く末を知るあのシーン、泣かずにはおれんよね…(修学旅行が会津若松だった世代)。高坂を助けるお寺の老夫婦もすごく良かったし、斬られ役仲間達も皆温かくて意地悪も全然なくてそうゆうとこ凄く好き。


時代劇愛と映画愛に包まれた気持ちの良い傑作です。そして本作は、ほぼ自主制作の映画(監督の肩書きをご覧あれ)もともと自主制作で始めたものを、ロケ地である東映京都撮影所の人が脚本を気に入り(充分ではないにしろ)お金を出してもらい制作。試写からどんどん噂が広がってシネコンの人に注目され上映が広がって…という(カメ止めを彷彿とさせる)サクセスストーリーの様子が、パンフレットでも読めます。今もおそらく、そのストーリーの真っ只中。

そう、パンフレット。1200円でこの薄さ?と最初思うのだけど…。

内容も恐らく自主制作。つまりZINEですよ。『侍タイムスリッパ–』という映画のために監督が作った、もしくはファンが作ったZINEのような、手作り感満載のルック。なんか文章の主語が不思議(笑)。役者紹介も今まであまり読んだことのないテイスト。たとえば…

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山本優子役「沙倉ゆうの」

劇中で助監督優子役を演じつつ、実際の撮影での助監督、制作、美術、小道具などスタッフとしても八面六臂の大活躍。
直前までスタッフとして働きつつ、いざ出番が来ると汗だくのまま満足にメイクも直せずカメラの前に立ち、今度は役者としてひたむきに助監督優子を演じきった(後略)
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え?誰目線?みたいな。こういう文章は普通ライターさんは書かないでしょう。でも役者紹介って、通り一遍のプロフィールだったり、映画を白々しく推してる本人コメントが多くて、正直映画パンフレットのガッカリポイントなことが多くない?
『侍…』の役者紹介は、どれを読んでも面白いよ。

公開当初はまだパンフレットは作ってなかったみたい。
他にも撮影裏話満載で、これは買う価値ありますぜ!
やー観れて良かった〜


アトロク「ハン・ガン特集」と『別れを告げない』感想

アトロク @after6junction のハン・ガン特集聴了(約53分)。

ゲストは、世界で初めてハン・ガン作品を翻訳したキム・フナさん、世界で一番多くのハン・ガン作品を翻訳しているという斎藤真理子さん。以下は内容メモ。

●宇垣「精巧で、緻密で、美しくて、静かで。雪国の雪みたい。すごく綺麗なんだけど、肌に落ちるとキーンと痛い。冷たくてすごく残る。その痛みを絶対になかったことにしない。」

●「世界でも特に日本でファンが多い作家。ノーベル文学賞の反応もめちゃ熱い!」

●「実際に読んだ人に、これだけ喜ばれているノーベル文学賞もなかなかないのでは。」

●受賞当日の二人のエピソード、楽しい!

●「肌にクる」文章

●作品的にも人間的にも信頼されている。元々日本に比べ韓国では文学者が尊敬されているが、ハン・ガンは別格。斎藤曰く「韓国純文学の『結晶』」。

●ハン・ガンはどういう作家か?何故日本で受けているのか?>>斎藤「作家もすごいが日本の読者がすごい。WEBなどで綴られる言葉など、感想でものすごい言葉があがってくる。これは他の作家と違う。どうして1冊の本が一人の人間からこれだけの言葉を引き出すことができるのか不思議に思う」

●済州島4・3事件は1948年。イスラエル建国=ナクバが1948年。それからずっと続き今も解決していないことも共通している。今ハン・ガンにノーベル文学賞を与える意味は言わずもがな。

●ハン・ガン最初にお薦めの一冊は
『ギリシャ語の時間』(作家本人推薦だが日韓では難解とも)
『菜食主義者』えぐられる
『そっと静かに』音楽に関するエッセイ集。本人の歌ともリンクしている
『回復する人間』唯一の短編集

7月、北書店にいらして超絶面白い新潟出身翻訳家3人のイベントを行った斎藤真理子さん。その場で買った『別れを告げない』は、その内容から長い間怯えていて、積ん読だった。置賜の一箱古本市に呼ばれ長く読書の時間がとれるのをきっかけに一気に読み進む。以下は読了後にThreadsに書いた感想。

「済州島4・3事件、信じられない大虐殺の歴史が書かれたハン・ガン『別れを告げない』を1か月近くかけて読了。本当に凄まじい。重い。だけど、こういう残虐でやりどころのない辛い話がとても苦手な自分でさえ、読めた。このことが重要だと思う。

こんなメンタルの弱い自分は、戦争やジェノサイドの辛さをどうやって後世に伝えるのか問題について、その手法についてしょっちゅう考えざるを得ないのだが、ハン・ガンの物語り方は、とても大切な解法に思えた。『少年が来る』も今なら読める気がする。」

研ぎ澄まされて鋭くて、確かに痛いのだけど、でもその感触の中に微か、未来の希望や人生への愛が垣間見える。その空気をむさぼるように、取り憑かれたように読み進んでしまう。次から次へと読むには少々自分の生命力が足りないが、でも読み続けたい。読みたいと思わせる魅力がある。出会えて良かった。


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